ブラジルレアル

ブラジルレアルは①新型コロナ感染拡大や②米中対立による輸出減、③財政悪化に伴う債務返済リスクを材料に売られ、加えて④トルコリラやアルゼンチンペソなどの新興国通貨安がさらに拍車をかけた結果、対円では18.1円/レアル、対米ドルでは5.78レアルと5ヶ月ぶりの安値となった。ここで項目毎に状況を見てみよう。

①新型コロナ禍…感染者数世界3位、死亡者数世界2位と深刻な状況にあるにもかかわらず、ボウソナロ大統領はコロナ対策に関して州政府と対立するなど市場を失望させてきた。ただし足元では感染ペースは鈍化し、欧米のようなロックダウンに至る感染再拡大には陥っておらず、経済活動は回復過程にある。またブラジルは、英国及び中国製の新型コロナワクチンの受託生産を担い、政府は2021年4月以降に英国製ワクチンの接種を始めると発表、感染収束につながるかが注目される。

②米中対立…バイデン新大統領誕生となればトランプ政権時代の敵味方お構いなしの関税引上げ攻勢から、対中国に絞った政策へ転換することが期待され、ブラジルも貿易上の恩恵を受ける可能性がある。加えて、コロナ禍からの脱出で先頭を走る中国経済が対米関係の改善により好調を維持し、鉄鉱石を含めた資源価格全般が堅調に推移すれば、資源国であるブラジル経済にとってはポジティブ。

③財政悪化…政府はコロナ対策のため歳出上限法を一時停止、GDP比12%に及ぶ大規模な経済対策を実施した結果、政府債務はGDP比90%と2002年以降で最大となった。さらにボウソナロ大統領は低所得者向け現金支給プログラムの導入を目指し、これまで政権の財政再建路線を評価してレアルを購入してきた投資家の失望売りを誘った。ただ足元では、政権内の反対もありトーンダウンしている。

④トルコリラ安…トルコは東地中海でのガス田探索を巡るEUとの関係悪化に加え、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争を巡る地政学リスクもあり、通貨リラは弱い。さらに、トルコ中銀はエルドアン大統領による圧力を受けて断続的に利下げを行う一方、リラ安阻止に向けた為替介入に伴い外貨準備高は急減するなど財務基盤の脆弱さも高まっており、結果として史上最安値を更新、レアルをはじめ新興国通貨全般がつれ安となった。表1は新興国の外貨準備と政府債務の対GDP比を示しているが、ブラジルは政府債務こそインド、アルゼンチンと並び多いものの、外貨準備は新興国の中ではインド、ロシアに並び潤沢で、地政学的状況も加えトルコや債務再編交渉中のアルゼンチンとは異なる。

<中長期的な成長ポテンシャルは高い>

ブラジルはコロナ禍により生産や消費活動がほぼ停止したが、中国景気の回復と経済活動再開などの効果で鉱工業生産は4月の前年比▲26.1%から7月には▲3.2%へと大幅改善、小売売上高も4月の前年比▲17.5%から7月には+5%へと回復している。また、一時的に前年比2%以下まで低下したインフレ率も中銀目標の中心値を超える3.9%まで回復し、利下げスパイラルに終止符が打たれそうなこともレアルを下支えよう。ブラジルの人口は2.1億人と世界6位、GDPは1.8兆ドルと世界9位で、中長期的には経済の成長ポテンシャルは高い。現状は④の理由でレアルがつれ安となっている面もあり、ファンダメンタルズ的にはやや売られ過ぎと思われる。コロナ禍が沈静化に向かう過程では、市場にあふれるマネーが割安な投資先を求めることが予想され、通貨レアルにも見直し買いが期待できよう。 

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