日本の物価と賃金
各国政府による新型コロナ経済対策の効果もあり、企業の現預金が減少する中で個人預金は増加している。今後ワクチンの実用化でアフターコロナとなれば人々の消費活動に火が点き教科書的には物価が上昇するはずだが、現状の先進各国の物価にその兆しは全く見られないどころか、日本やドイツは再びデフレへと突入しつつある。ここでデフレの先頭を走る日本の物価下落の要因を考えてみる。
図1は日本の消費者物価指数の推移だが、消費税を上げた2014年以外ほとんど上昇していない。物価は基本的にモノの需給で決まり需要が多ければ上昇するわけだが、日本の需給ギャップは足元で▲34兆円と試算されており、デフレ状態も納得できる。需要が減少する理由は、購買力のある若年人口が減少していることに加え、賃金が上昇していないことも原因として挙げられる。図2は日本と中国の20年間の平均給与所得推移だが、日本は最近でこそ横ばいに転じつつあるが長年に亙りほぼ右肩下がりであり、お金が無いので買いたくても買えなかったことが分かる。給与所得減少は労働生産性の低下に起因しており、製造業に単純化して考えてみると日本の主力製品だったテレビなどの生産拠点が労働賃金の安い中国など海外へ移転し、一方でその代わりとなる商品が育たなかったためと言える。図2を見ると、世界の生産拠点となった中国の平均賃金推移は、WTOに加盟した2001年以降に8倍へ跳ね上がっている。人口14億を抱える国の平均賃金が8倍となったのだから、移転元の一つである日本の給与水準が製造業を中心に増えなかったのは仕方がないだろう。最近は中国の労働賃金も安価ではなくなったことから、より賃金水準が低いベトナムやタイへと拠点が徐々に移っているようだ。表1のようにアジアのなかでベトナム、タイの人口はそれほど多くはないが、人口13.6億人を抱えるインドが控えており、日本が賃金上昇のサイクルに戻ることは期待できない。
それでは日本の物価上昇はどうしたら実現できるのだろうか、一つは中国がこれまで溜め込んできた貿易黒字を用いて消費を世界に拡大し、その結果日本を含め世界中のモノの値段が上昇するという流れであり、コロナ前までのインバウンドの動きだ。もう一つは、日本が過去の家電や自動車産業、そして現在の米国のIT産業のように他国に真似のできない技術に基づく産業を育成し、給与水準の引き上げに繋げることができれば、日本の物価も上昇する可能性がゼロではない。
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