日本のCPI
世界規模で広がるインフレとそれに伴う各国中銀による超金融緩和策からの出口戦略に市場の関心が集まるなか、日本は11月CPI上昇率が前年比0.6%と蚊帳の外。金融政策も「永遠のゼロ」と揶揄され、異次元緩和からの出口も当分来ないと思われている。しかしながら資源価格を中心とした世界的な物価上昇は昨年来の円安もあり、ゆっくりとだがインフレ圧力として日本にも押し寄せており、11月の企業物価は前年比9%と41年ぶりの高水準、日銀による12月の生活意識調査でも1年後の予想物価上昇率は5.5%と13年ぶりの高さとなった。ここでなぜ日本のCPIは未だ低位に止まるのかを考えてみる。
企業物価や生産者物価など川上のインフレ率に対し川下のCPIが低いのは日本だけでなく、足元では米欧中も同様の状態。これは企業が資源高など供給側のインフレ要因は一時的と見て、いわゆる企業努力や在庫利用により消費者への価格転嫁を控えていることが主な原因。但し、欧米では供給側の影響に加え労働賃金の上昇から、消費者への価格転嫁が進みCPIも上昇傾向にある。日本では賃金が上がらず消費も盛り上がらないため消費者への価格転嫁は進まないと思われていたが、足元では少し変化が見られる。11月のCPIを詳しく見てみると、総合CPI上昇率の前年比0.6%に対し、携帯など通信料金の寄与度が▲1.5%、エネルギー価格の寄与度が1.1%となっている。
図1. は直近2年間の日本の総合CPI上昇率とそれに対する通信料金とエネルギー価格の寄与度の推移。この図を見ると昨年3月に携帯料金引下げの影響でCPIが低下したものの、その後はエネルギー価格上昇の影響からCPIが上昇基調に転じていることがわかる。つまり1年程前の携帯料金引下げという日本特有の特殊要因を除くと、現状は欧米と足並みを揃えてCPIは大幅に上昇している。
ところで CPIは前年比で計算されるため、今年4月以降は通信料金の影響が剥落、▲1.5%の下振れ要因は無くなり、単純計算によるとCPIは0.6%+1.5%=2.1%となる。もう一つの日本独自のCPI押し下げ要因としてGoToキャンペーンがあるが、当初予定されていた2月からの実施は見送りとなった。一方で原油価格がこのまま横這いであれば、エネルギー価格の上昇寄与度は7月に向け半減していくと計算され(図2)、結果として4月以降のCPIは1.5%近辺で推移しそうだ。但し、供給制約に伴う在庫の減少と円安定着および政府からの賃金上昇圧力を考慮すると、CPIが日銀の目標とする2%を一時的に上回る可能性もある。今後のCPI動向および日銀の対応に注目したい。
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