民主主義か権威主義か
「民主主義」とは、執行・立法・司法など様々な監視機関の権力がバランスし、自由公正な選挙を通じ民意に政策決定者が応えようとする制度で日米欧各国が代表国。「権威主義」とは、一般的に1人の政治指導者(独裁者)が権力を専有し、選挙が形式化した政治体制を指し、中国やロシアなどが当てはまる。2030年にもGDP世界1位の座が米国から中国に移ると予想されており、世界経済のリーダーが民主主義国家から権威主義国家に入替ることになる。歴史的にみて民主主義国家以外の国が覇権国だったのは15世紀のスペインまで遡るので、中国がGDP1位となれば約500年ぶり。チャーチル英元首相は「民主主義には厄介な問題があるが、これに勝る政治手法が無い」という名言を残したが、経済システムにおいて中国が掲げる社会主義がついに民主主義を超える発明となるのだろうか。
足元では、民主主義国家もシステムの修正を試みているようで、米国ではトランプ前大統領が敵対する国に多額の関税を課したり、敗北の選挙結果を認めないなど権威主義国家顔負けの政策を行ったのち、現バイデン大統領は左派的政策を進め格差をなくすと宣言した。また欧州では民衆が移民排除を求めるなど、従来の民主主義とはやや異なり世論が右傾化したりしている。日本でも岸田首相が新しい資本主義を掲げ、これまでの市場の役割を重視した新自由主義により拡大した格差や貧困を、分配により是正すると宣言している。一方で中国は、共同富裕を掲げ、米国以上の貧富格差と揶揄される状態からの是正を目指す。
ところで歴史を見てみると、民主主義は最近の政治手法で権威主義の時代の方が長く、安定感という意味では権威主義に軍配が上がり、例えばエジプトや中国は約4000年の持続を誇る。面白いことに両国の歴史を見ると、ピラミッドや万里の長城の建設など、所謂ケインジアン的政策を採用している。さらに巨大プロジェクトに必要な労働力をエジプトでは奴隷、中国では地方在住者など社会的弱者に依存しており、貧富格差の縮小より格差拡大の方が政治的な安定性は高いとも言える。ここであらためて近代に戻り米国を見ると、建国後は奴隷制により、最近では低賃金の移民により安価な労働力を確保しGDP世界1位となり、中国は地方出身者などによる安価な労働力を活用、高度成長期の日本も同じような構図だった。こうしてみると、歴史的には安価な労働力と国策を駆使する格差拡大社会の方が経済成長率は高そうだ。現代において各国が目指す格差是正が経済成長に結びつくかは今後検証されることになるが、貧富の格差が先進国の中では比較的小さいとされる日本を見ると、ここしばらくGDPは一向に増えず国威は低下しており、1億総貧困とも言われ、民主主義+格差縮小は経済的には成功と言えない。社会主義国家として残る中国や北朝鮮の貧富格差はとても平等とは言えない状態で、社会主義+格差縮小も実現していない。
将来的に権威主義の中国がGDP1位となれば、価値観やルールの違いから世界中で様々な歪みが顕在化することが想定される。従来当たり前と考えられてきた、言論の自由や資本主義、市場主義といった考え方が一定の修正を迫られることになるだろう。但し、過去を見るとGDPが世界1位になった直後にその国がリーダーになるかというとそうではなく、前回は1872年にGDP1位の座が英国から米国に移ったのち、米国がリーダーとして振舞うようになったのは第一次大戦後の1918年頃。つまり今回も50年程度は交代期間が必要であり、民主主義の巻き返しの機会は十分にある、まだまだ紆余曲折が予想される。
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