資産所得倍増プラン
政府が策定する資産所得倍増プランとして、小額投資非課税制度(NISA)の非課税期間を無期限として今後5年間で口座数3,400万口座、投資額を56兆円にそれぞれ倍増する目標が掲げられた。貯蓄から投資の流れを作り、家計の金融資産2,000兆円の凡そ半分を占める預貯金1,000兆円の一部をシフトさせることが狙いだ。つまりNISAの投資対象としては国債などの預貯金に準ずるものではなく、株式などのリスク性資産、できれば日本株関連へというのが本音だろう。但し、株式はマクロ経済状況や企業業績によって下落することもあり、老後2,000万円問題で注目された老後資金の投資先として、選択を躊躇する向きもあろう。ここで家計の資産形成において株式等のリスク性資産へのシフトが適切か否か、過去を検証してみる。
近年退職年齢が上昇したことを考慮に入れここでは、平均的な就労期間を40年とし、過去40年間に、毎年10万円を①現預金(10年国債)、②日本株(日経平均株価)、③米国株(円建てS&P500)に継続投資した場合、現在どのくらいの資産額になっているかを試算してみた。その結果が図1、これを見るとバブル崩壊以降日本株は大幅下落、その後のパフォーマンスも低迷しアベノミクスで株価が上昇に転じるまで現預金を下回っていた。一方で米国株のパフォーマンスは極めて順調。現時点でのシミュレーション結果を比べると、総投資総額400万円に対し①541万円、②903万円、③4,503万円、米国株を選択したケースが断トツの結果となった(ちなみに課税対象の場合この収益は約2割減となるので、NISAの非課税恒久化の影響は大きい)。ウォーレン・バフェット氏が好成績なのも、米国人の家計資産の5割以上を株式等が占めるのも、さもありなんとなる。
だがここで日本政府が意識する米国人の家計資産に占める株式保有比率の高さは、彼らの投資行動がリスク選好型にあることが理由ではない可能性を指摘しておきたい。日米における家計資産の構成推移を見ると、1980年代には現預金85%に対し株式等15%と両国でほぼ同じ構成だった。ここで米国人の家計において40年前に資産100のうち85%を現預金(10年米国債)、15%を米国株(S&P500)の構成で運用をスタートした場合(追加投資は行わない)の運用結果を試算してみる。この間、現金が3.8倍、S&P500が65.6倍に増加、結果的に資産に占める株式比率は59%に上昇しており、現在の米国の金融資産に占める株式等51%に近しい値となる。つまり現在の米国人の家計資産の構成は、積極的な投資行動によるものではなく、株価上昇の結果とみることができる。
従って、足元で日本政府が意識すべきは、国民の投資行動のリスク選好型へのシフトではなく、経済成長とそれに伴う株価上昇ということになる。
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