日銀人事と国債市場
国内債券市場では、日銀が上昇する金利を抑え込むために国債を大量に買入れた結果、国債発行残高の約半分を日銀自身が保有するに至り、一部銘柄の市場流通量は極端に減少。特に長短金利操作(YCC)に伴い生じたイールドカーブの歪みを修正するため、昨年6月以降は指値オペの買入対象銘柄をこれまでの10年新発債に限定から、残存7年まで拡大した結果買入れ額が増加し、1月の国債買入れ額は23兆円超に膨れ上がった。買入れにより一部国債は発行量に対する日銀の保有割合が一時的に100%を超えるなど日銀の買占めともいえる状況で、日銀による国債貸出しも1月に121兆円まで増加、国債のフェイル(売約定済で国債を受渡さない代わりにペナルティーを支払う取引)も5兆円と急増した。
このような事態に陥った原因として、市場参加者が日銀による異次元緩和の出口が近いと予想、金利上昇を期待し国債の空売りや先物売りを増み増したことがある。日銀はデフレ脱却を目指しインフレ率2%を目標に異次元緩和を進めてきたが、足元1月のコアCPIは前年比4.2%と目標の2%を昨年4月以降10ヶ月連続で上回るうえ現在も加速中。加えて緩和継続の理由とした低迷する賃金上昇率も12月には前年比4.8%とCPIを上回る上昇を見せた。「インフレは一時的」としていた欧米中銀が、昨年大慌てで利上げを開始した姿が今の日銀に重なることに加え、正副総裁の任期満了に伴い金融政策変更の可能性が高いとして、ヘッジファンドや一部国内投資家が債券売りのポジションを積み上げているようだ。
さて今後のイベントとして日銀政策会合が3月9、10日、債券先物の最終売買日が3月13日、副総裁の任期が3月19日、黒田総裁の任期が4月8日、4月会合が27、28日と続く。次期総裁候補の植田氏は所信聴取で現行の金融政策継続を表明したものの、図1のように現状のイールドカーブは大きく歪み、流動性の低さから社債発行など市場機能は半ばマヒしており、YCC解除に前向きと思われる。仮に3月会合を無風で越えても、その翌週には債券先物最終売買日が控える。3月限の債券先物は受渡対象最割安銘柄のほぼ全額を日銀が保有するうえ、先物売り方には決済の仕組み(買戻すor現物債の受渡し)を正確に認識していないヘッジファンドもいると思われ、1996年の米ヘッジファンド買占めによる最終売買日に向けた先物急騰、あるいは1999年の受渡し銘柄不足による限月スキップ同様の混乱も予想される。仮にこれを乗り越えて4月の日銀会合で政策変更となった場合も金利の乱高下が予想される。新総裁には会合後の会見を含め市場との丁寧な対話を求められ就任早々難しい舵取りとなる。過去、欧米の学者出身の新任中銀総裁が口を滑らせて金利急騰という場面もあったが、政府債務がGDP比260%以上に膨らむ日本において、金利の急激な上昇は財政破綻の引金を引くことにもなりかねず、この点からも慎重な対応が求められよう。
このような環境下、過去何回も予想外の政策を繰り出しながらも市場の混乱を最小限で抑えてきた黒田現総裁による、最後の3月会合でのYCC解除という選択肢もあろう。昨年12月には事前に市場に織り込ませることが困難な、YCC上限の引上げに成功しており違和感はない。
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