原油高止まりの理由
今年に入り円安進行とともに原油価格が上昇した結果、エネルギー自給率が低く大半を輸入に依存する日本は、貿易赤字拡大を通じた国力の低下につながっている。
表1は世界の原油消費量ランキングだが、第1位はGDP世界トップの米国、2位は同2位の中国であり経済大国が並ぶ。但し、米国は世界最大の産油国でもあり地産地消とも言え、原油価格はほぼ中国経済の動向次第とも言える。因みに図1.は原油価格(WTI先物)と中国株(上海株)の推移だが、米国でシェール革命が進行した2008~2013年や世界の脱炭素機運が急速に高まった逆オイルショックと呼ばれる2014年を除くと、両者の連動性が高いことがわかる。
一方で足元の中国株は中国経済が住宅バブル崩壊や少子高齢化などにより、バブル崩壊後の日本のように長期低迷に陥るリスクが高く低迷気味だが、原油価格は堅調に推移している。背景には、ウクライナ侵攻に伴う供給制約やOPECプラスでの減産合意、米国のインフレ対策の一環として放出した戦略備蓄の払底などが指摘されるが、そもそも原油高に対し世界の大国がそれほど困っていないという意外な事実がある。
ここで改めて表1(原油消費量)を見ると、中国、インド、日本、韓国、ドイツ以外は産油国でもあり、原油価格の上昇は物価高を除けば、基本的に収益増に伴うプラス効果の方が大きい。また中国とインドは、ウクライナ侵攻に伴う西側諸国の制裁により割安となったロシア産原油を輸入することで、却って経済的に優位な立場にあり、実際ロシア産原油の輸出量の8割を中国とインド向けが占める。尚、足元におけるロシアの原油生産量は、ウクライナ侵攻前を越えつつある。結局、西側諸国のなかで原油高により心底苦境に追い込まれるのは、日韓独など国際社会における政治的プレゼンスが低い国が多く、これが原油高への取組みが盛り上がらない一因と思われる。
続いて日本への影響を見てみる。日本の総輸入額に占める原油の割合は10%、LNGは5%と高い。通常であれば価格高騰が消費を抑制することになるが、政府の補助金政策によりエネルギー価格は抑えられ、足元での消費への直接的な影響は限定的。一方で原油高と円安により貿易赤字は拡大し、補助金を含む年間約15兆円が資源国へ支払われることになり、円安が更に進む構図にある。これを産業的な視点から見ると、本来ならガソリン価格の上昇に伴いEV車や次世代発電などの技術開発に向けた投資が積極化されるはずだが、補助金政策の影響もあり国民の問題意識は高まらず、いずれも盛り上がらない。市場機能の自由度を奪う政策は、このように急激な環境変化に対応する短期的な施策としては相応しいものの、中長期化すると市場との乖離に伴うネガティブな影響の拡散リスクがある。
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