地上の太陽
日本政府は、2011年の東日本大震災による福島第一原発のメルトダウン事故後、全ての原発停止を決定、電力不足は火力発電で凌いだ。その後、原発は再点検を経て現在全33基中10基は再稼働したものの、日本における発電量の構成は、火力発電73%、次いで再生エネルギー20%、原発は7%に止まり、火力が占める割合は依然として高い。その後2022年に世界3位の産油国であるロシアがウクライナに軍事侵攻、足元ではイスラエル情勢が緊迫化し原油価格は上昇、加えて内外金利差の拡大を背景とした円安が進み、エネルギーを輸入に依存する日本経済は困難な状況に直面する。本来なら再生エネルギー発電を増やしたいところだが、その代表格の太陽光発電は、政府による電力買取価格の引下げによる採算悪化、発電パネル設置に適した平坦地の不足に伴い頭打ちにある。足元では日本が開発で先行する折り曲げ可能な太陽電池の実用化により、ビルや民家の屋根など設置エリアの拡大が待たれる。一方、風力発電は、設置候補となる遠浅海岸が少ないことに加え、推進派国会議員の汚職問題が発覚し迷走中。このまま原油価格の上昇が続くと、拡大基調の貿易赤字がさらに膨れ、円安が加速する悪循環に陥るリスクが高まる。仮にそうなると50年前のオイルショック再現となり、日本経済は麻痺してしまう。
この厳しい局面の打開には、地政学リスクの沈静化、内外金利差縮小による円安基調の転換などが考えられるが、何れも政治或いは市場任せであり確実性を欠く。そこで注目されるのが新エネルギーの発見・実用化、具体的には核エネルギー、と言っても核分裂ではなく核融合反応による発電だ。これは重水素と三重水素(原発処理水にも含まれるトリチウム)がヘリウムに変位する際のエネルギー放出を利用するもの、いわば地上にある太陽による発電である。 図1は核融合反応の概念図だが、反応前の重水素と三重水素を合わせた重さより、反応により生成されるヘリウムと中性子の質量の方が軽くなるため、その質量の差がエネルギーに変わり放出される。原料となる水素の供給をコントロールすることで核分裂反応のようなエネルギー暴走の可能性は低く、加えて原料となる水素は自然界に大量に存在する。
一方で問題となるのは、融合反応中の温度が1億度と超高温となり、一般の金属容器では溶けてしまうこと。そこで現在、磁場を利用することで超高温の反応状態(プラズマ)が容器の壁に衝突しないようにするトカマク方式や、周りからレーザー光線でプラズマを容器中央に圧縮するレーザー方式が開発途上にある。足元ではトカマク方式を採用した、日、欧、米、露、韓、中、印が参加するプロジェクト、国際熱核融合実験炉(ITER)の建設が進行中である。2025年の稼働を目指すが、残念ながら今月に入り一部部品の不具合から数年の後倒しが発表された。
核融合発電に関しては、ITERのような国際プロジェクト以外に一般企業も参入しており、例えば米国のロッキードマーチンは2014年時点で、10年以内の大型トラックサイズの小型核融合炉実用化を発表(遅れ気味のよう)。日本では大阪大学が独自のレーザー方式を採用、2030年代の実用化に向け研究開発中。自然界に大量に存在する資源を活用し、CO2を排出せずに投入エネルギーの10倍以上の出力を期待できる核融合発電、非資源国である日本の国力向上に向け、早期の実用化を期待したい。
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