上昇する円金利

4月の日銀政策決定会合後に一旦終了したかに見えた円金利上昇だが、足元では10年国債が1%に接近、40年債も2.4%台と13年ぶり高水準となるなど、再び上昇が加速し始めた。改めてその原因を検証、今後の展開を考えてみる。

<日銀の軌道修正>

植田日銀総裁は会合後の会見で、「円安による基調的物価への影響は無いのか?」との記者の質問に「はい」と簡潔に返答。日銀が定義する“基調的物価”は様々な一時的要因の影響を取り除いた物価であり、年明け以降の急激な円安や原油高などの影響は当然除かれる。学者ならではの正確性重視の姿勢に加え、記者からの質問が付随的なものだったこともあり極めて簡潔に回答、メディアは円安容認と捉え、報道で「円安は物価に影響がない」としたため円安が急進した。その後、植田総裁は「経済物価に潜在的に大きな影響を与えうるものなので、最近の円安について日銀は十分注視をしていく」「基調的物価にどういう影響が出てくるかについて注意深く見ていく」と発言、軌道修正に動いた。また5月に公表された政策会合の“主な意見”では、「約2年後に2%の物価目標を実現し、需給ギャップもプラスとなれば、金利のパスは市場で織込まれているより高いものになる可能性がある」「経済にストレスを与えないように金融緩和の度合いを調整するには、適時適切に政策金利を引上げていくことが必要である」など、追加利上げありきで議論が進んだ様子が伺える。加えて会合後の会見で総裁は、国債買入れ減額(QT)について「市場動向や需給を見ながら機を捉えて進めていく」「国債ストックの減少が長期金利を上げるという方向でストック効果がやや弱まる」と発言。会合ではQTは既定路線であり、実施時期や効果についても議論されたようだ。市場は改めて金融緩和策の修正局面入りを織り込み、円金利はそのストック効果が最も薄れる10年ゾーン中心に上昇したと考えられる。

<政府の円安対策>

住宅ローンは変動金利型が全体の7割を占めることから、金利上昇に伴い国民の不満が高まると想定される。さらにコロナ禍に伴う財政出動により政府債務は膨らみ、国債残高はGDPの2倍超まで積み上がったことから、政府は利上げに後ろ向きとみられていた。一方で日銀の分析によると、金利上昇の家計への影響は、預貯金の受取り利息上昇によるプラス効果の方が住宅ローン金利の支払い負担増に伴うマイナス効果を上回る。加えて金利の上昇は政府債務の実質残高減少を通じ、将来の財政健全化に資するとも言える。岸田首相は円安進行への国民の不満に配慮し、急遽、植田総裁と会談。その後の記者会見で総裁は軌道修正に動いたことから、政府は日銀に円安対策となる利上げを催促したように見える。

<消費者物価の上昇>

電力料金は再生可能エネルギー賦課金が5月から月額500円程度引上げられる。また政府による電力・ガス代補助金は5月分で終了、延長が繰り返されるガソリン補助金も夏以降には停止が見込まれる。仮に全てが実現すれば消費者物価は前年比1%程度の上乗せが想定される。加えて春闘を経て34年ぶりの高水準が見込まれる賃金引上げが6月以降順次実行され、消費活動の活発化(第2の力)による物価上昇も想定される。日銀は7月会合で政策修正にかかるフリーハンドを手にするだろう。

以上から、年末に向けて消費者物価が上昇する中、日銀は政府に促される形で追加利上げとQTを進めると予想され、植田総裁の発言通り2年後の物価上昇率2%を織り込む形で、来年度末にかけて円金利の上昇が続くと思われる。     

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