仏下院選

6月9日に行われたEUの立法機関にあたる欧州議会の選挙において、加盟国では極右政党が台頭。仏ではルペン氏率いる極右の「国民連合(RN)」が得票率31.4%とマクロン大統領が率いる「再生」など「与党連合(ENS)」の14.6%を大きく引き離し1位となった。敗北を受けマクロン氏は下院解散、総選挙(6月30日)を決断。下院選(577議席)は小選挙区制で、1回目投票で過半数を獲得できなければ7月7日に決選投票となる。その上で新しい下院議会で首相選出となるが、大統領は外交・国防を担当する一方、首相は内政を担当、予算編成など議会運営に責任を持つ。下院選では与党連合ENSと極右RNおよび「左派連合NFP」の3大勢力の戦いが予想されるが、現在の支持率は、ENS(18%)、RN(33%)、NFP(28%)と右派と左派が1位、2位で与党連合は3位に沈む。

・与党連合ENS…マクロン氏が1期目の大統領選のために立ち上げた政党を母体としており、歴史が浅く結束も緩い。マクロン氏は極右首相誕生を恐れる有権者が大統領支持に回るとの読みから下院解散に踏み切ったと思われるが、2016年の英国キャメロン首相がEU離脱の是非を問う国民投票に踏み切った時と似たようにも見える。大統領の任期は2027年であり、仮に選挙で敗北しても大統領辞任はないとしているものの、世論だけでなく結果責任を追及する身内からも辞任要求が出る可能性はある。

・極右RN…もともと反EU、移民排斥など極端な右寄り公約を掲げ、親ロシアとも見られていたが、2022年にルペン氏が党首を退き、28歳と若いバルデラ氏が党首を引継ぐとともに政権奪取のため過激な主張を取り下げた。ルペン氏は「下院選で勝利してもマクロン大統領と協力していく」と発言。またバルデラ党首は「下院選で過半数獲得が至上命題、できなければ首相に立候補しない」「首相となれば減税を実施するが、その前に財政監査も当然行う」「ウクライナ支援は続行するが、戦争拡大につながるような兵器提供はせず、仏軍のウクライナへの派兵には反対」と発言、極右に対する警戒感を排除しつつ国民の支持拡大を狙う。

・左派連合NFP…今回の下院選に向け、「社会党」「不服従のフランス」「環境派」「共産党」が連合し、極右派の台頭阻止のため「新人民戦線(NFP)」を結成した。EU離脱は主張しないが、公約の減税などバラマキ政策を進めれば、主要3政党の中で財政赤字は最も拡大すると予想される。

表1. 主要3政党の公約                    作成(あおぞら証券)

与党連合ENS 極右RN 左派連合NFP

経済政策 来年電気料金引下げ 年金見直し、付加価値税減税 年金増額、公務員給与引上

財源 公共支出抑制 財政見直し 所得税、相続税、大企業税

移民・環境 EV推進 移民削減、EV反対 移民改革放棄、環境保護

 EUの行政執行機関である欧州委員会は、仏、伊など域内7か国に対し財政規律違反の是正を求める「過剰赤字手続き」を開始。対象国には数十億ユーロの罰金が科される可能性があり、EUとの関係も争点になる。現状支持率のまま選挙を迎えれば、中道ENSは敗退、右派RNと左派NFPの決選投票となる選挙区が多くなる。足元では、財政悪化と企業増税に加えEUとの対立が懸念されるNFPよりはRNの方が望ましいとの見方が広がっており、仏経済界ではマクロン氏を見限りRNに接近する動きも見られる。仏では極右政党台頭への警戒感から現在株安、債券安が進むが、今後RNの現実路線への転換により、2022年のメローニ伊首相誕生時と同様、右派勝利後に市場が反発する可能性もあろう。

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