第2次トランプ政権スタート

1月20日にトランプ氏が米国第47代大統領に就任、第2次トランプ政権が始動した。就任演説では「毎日が米国第一」と語り、選挙戦で掲げた公約通り政策の大転換を訴え、就任式後に40本超の大統領令に署名した。

貿易政策 中国やカナダ、メキシコを対象に貿易実態調査、関税徴収の外国歳入庁を設立

エネルギー パリ協定から離脱、エネルギー緊急事態宣言、EV普及策など気候変動対策を撤回

不法移民 メキシコ国境巡る緊急事態宣言、国境の壁建設、国籍の出生地主義制度の見直し

政治改革 政府効率化省設立、政府職員の採用凍結、テレワーク禁止、解雇可能な政治任用拡大

その他 WHOから脱退、TikTokのサービス継続に猶予

 就任初日の主な大統領令を表1に示したが、特にパリ協定とWHOからの離脱は世界を驚愕させた。一方、関税引上げや対中強硬策の施行は無く、TikTokのサービス継続を75日間猶予するなど対中融和策が含まれたことから、内外株式市場は好意的に捉えた。就任式をリアルタイムで反映したアジア市場では、中国株や日本株も上昇。但し、カナダ、メキシコへの関税引上げを2月1日に決定するとコメントしたことで、両国に工場を多く抱える日本の自動車株は一転急落するなど、市場はトランプ氏に振り回された。

 さて、今後もトランプ氏の気まぐれな発言や政策変更とともに市場の乱高下は続くと予想され、短期投資家は疲弊すると思われる。この先は、長期的な目線でトランプ政権を眺めることが必要となるだろう。具体的には、米国の貿易赤字を問題として関税引上げ策を持ち出すことから、赤字幅の大きい中国、メキシコや引上げ幅の大きいカナダの株価は乱高下が予想されるうえ、実際に関税引上げに動く可能性も高く、内需企業以外への投資は控えたい。一方、米国にとり対日の貿易赤字は中国の五分の一程度、国別では7番目であり、関税引上げの順番が回ってくるまで時間的余裕がある。逆に言えば、中国などの商品への関税が引上げられた場合、代替商品を供給できる日本企業は一時的に潤う可能性もある。但し、最終的に日本の関税引上げとなれば、一気に暗転するリスクと背中合わせだ。更に関税以外のトランプ氏の戦略は予想がつかないため、結局米国との取引シェアが高い、或いは米国に多くの資産を持つ企業のリスクは高い。つまり日本企業としては中国だけでなく米国とのデカップリングも必要となってくるわけで、結果的に対米黒字が大きくない割りに代替品目の生産能力を持つ国にはチャンスとなろう。

ところでトランプ氏が掲げた公約を並べると、ウクライナ紛争を1日で終結、中国に60%・その他の国に10%の関税賦課、インフレ鎮静化など、就任直後ということもあり現時点で実現しているものはまだ少ない。中にはグリーンランド購入やパナマ運河の奪還など、実現可能性が無さそうなものも多く含まれる。加えて今後、関税引上げや減税が実現した場合には公約とは反対に物価上昇が予想され、結局全ての公約を実現するのは難しそうだ。またJETROの試算ではトランプ関税を実現すると米経済は▲1.1%減速するとされ、米国民が公約を実現しても景気減速と物価高が待っていることに気づいたときには、トランプ政権の支持率は低下するかもしれない。その場合2年後の中間選挙時にはレームダック化、4年後の大統領選では政権政党の交代も予想され、足元でトランプ政権の戦略にすり寄っても、4年後には正反対の経済環境に転換している可能性がある。したがって今後の対米投資は、長期にわたり発展が期待できるAI関連以外は、企業も投資家も及び腰とならざるを得ないだろう。

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