米国の財務リスク

新型コロナ禍を受けて緊急の医療対策、雇用対策などの必要に迫られ世界各国は各国は財政支出を拡大。その後のコロナ鎮静化で各国は財政支出を縮小したが、米政府の負債比率は足元で106%と4年ぶりの高水準にある。因みに金融を除く米企業の負債比率は高収益を背景に47%と9年ぶりの低水準に止まる。このような負債比率の高まりは国債金利の上昇圧力となる。更に足元ではトランプ政権が掲げる、鉄鋼・アルミに続く相互関税などの課税対象の拡大は物価上昇要因であり、減税による財政悪化懸念とともに金利上昇リスクは高まる。結果として、図1のようにコロナ後の米国債のスワップスプレッドはマイナス幅の拡大傾向(スワップ金利<国債金利)が続く。下院共和党が提出予定の大型減税と歳出法案は、基礎的財政収支の赤字を最大5.5兆ドル悪化させ、これにより今後10年間の支払利息は約1.3兆ドル膨らむという。こうなると、財政の上限到達タイミングでトランプ氏が癇癪を起し利払い停止を指示、一時的に米国債がデフォルトとなる可能性もあり、警戒感から国債金利は下がりづらい。一方でイーロン・マスク氏が政府効率化省(DOGE)を率い、米国際開発局(USAID)の閉鎖、CIA局員への退職勧告や補助金等政府支援策の凍結などで財政健全化を図るが、削減額は現状で約86億ドルとされ赤字はとても埋められない。

八方塞がりのように見える米財政赤字だが、近年の金価格高騰が思わぬ助け舟となる可能性がある。足元で金価格が最高値を更新する背景には、米ドル人気の低下がある。これはロシアが西側諸国による経済制裁で海外に保有する米ドルを使用出来なくなったのを見て、親米派ではない国々が外貨準備として米ドルより金を嗜好するようになった影響がある。加えて、トランプ新政権のあらゆる国に対して関税引上げをちらつかせる脅迫的な政治手法や、トランプ氏自身が西側友好国リーダー達よりも権威主義国家首脳との相性が良さそうなことが、米ドル離れを加速する。世界の外貨準備に占める米ドルの割合は2000年の71%から昨年には既に58%に低下した。一方で、米国は世界一位の金保有国でもあり、各国が米ドルを売却し金を購入することで金価格が上昇すると米国は潤う。因みに米政府が保有する金の簿価は$42/tozである一方、現在の市場価格は$2,800/tozであることから評価益は$8,000億に達する。この結果、大型減税と歳出拡大により増加する支払利息の10年間分の半分以上を補填できることになる。つまり金が強含む限り、米国の財務リスクはそれほど悪化しない。但し、外貨準備の金以外へのシフトが強まると財務的メリットが減少するので、ここに来て米国政府が代替資産の有力候補と見込まれる暗号資産であるビットコインの購入を計画しているというのも頷ける。

さて、財政赤字では先進国でトップを走る日本も、国債金利がスワップ金利を上回るようになってきた。一方で2023年末のドル建て対外債権保有額も外貨準備額も日本は世界一位であり、ドル高が円の信認を補完する。従って政府の借金がGDP比250%まで積み上がっても、今のところ円は急落していない。但し、今後日銀の利上げ継続に伴う利払い負担増、更に少数与党政権による財政拡大も想定され、日米金利差が縮小しても一方的な円高とはならないかもしれない。

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