年収103万円の壁

昨年から議論が続く「年収103万円の壁」は、見直しを盛り込んだ税制関連法案が3月4日衆院を通過した。最終的に、所得税が発生する年収は103万円から160万円に引上げられる。この160万円の内訳は、基礎控除は現在の48万円から95万円、所得控除は55万円から65万円となる。

本来ならば、賃金と物価の上昇と共に、数年毎に見直しが行われるべきだったが、失われた30年の間はどちらも低迷が続き、制度的な疲労が露見しなかった。ここに来て30年ぶりに賃上げと物価上昇が進行したため不具合が指摘され今回の改正となり、やっと正常な状態に戻ったとも言える。

因みに、103万円の手前には住民税が発生する100万円の壁もあり、それ以外にも昨年当欄で指摘したように、社会保険料の壁、配偶者控除の壁など、実は壁だらけ。そもそも、壁というよりは支払いが発生し始めるトリガーポイントがなだらかに設定されている、と考えた方が良いように思う。

ところで、昨今人材不足が深刻化する中、働き止めが問題となるが、「年収103万円の壁」を理由に働かなくなるという人は少ないように見える。一方で103万円の壁の引上げにより、年収の多い人も所得控除が増えるので手取りは増え、国の税収が減ることになる。つまり今回の改正は働き止め対策ではなく減税策と言える。

一方で、社会保険料の壁は、従業員51人以上の企業で週20時間以上勤務する被雇用者の場合は年収106万円、それ以外は130万円。尚、保険料は被雇用者と雇用主が折半して負担する。保険料は所得控除前の金額から算出されるため、被雇用者は所得が増えても手取りが減ることがある上、配偶者の扶養から外れ保険料負担が生じることから、働き止めを選択するケースも多い。一方で雇用主は、社会保険料の支払い負担が生じるため、働き止めを容認し易い。つまり労使双方で働き止めするインセンティブが働くことから、社会保険料の壁が働き止めの主因であろう。表1は、配偶者の年収900万円以下、60歳未満の東京都民を基準に、社会保険料の壁(130万円)が適用されるケースの昨年までと25年度の手取り額を試算したもの。やはり社会保険料の壁で一時的に手取りは減少する。

厚労省は働き止め対策として、年収が130万円以上になっても手取りが減らないよう、賃上げに取り組む企業などに、1人当たり最大75万円の助成金を支給することを検討。また子供の親に適用される特定扶養控除63万円について、子供のアルバイト収入などの年収要件を103万円から150万円に引上げる。一方で、所得税の控除額160万円が適用されるのは年収200万円以下の給与所得者のみとし、年収200万円から850万円までは、2年間限定で基礎控除が上乗せされる。今後も、相変わらず複雑な税制が続くことになりそうだ。

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