トランプ関税炸裂
トランプ米大統領は選挙前の公約通り関税引上げを矢継ぎ早に連発。鉄鋼・アルミ関税に加え、輸入自動車全般へと対象を拡大、4/2には米国を食い物にしてきた国々からの「解放の日」として世界を相手に相互関税を発表した。市場は米国を含む世界経済への強い下押し圧力と評価し、世界中の株価は急落した。従前よりトランプ氏は、関税は相手国の企業が負担すると説明していたが、最早それを真に受ける米国民も減り、足元では駆け込み消費が一時的に盛り上がった。今後は価格上昇と需要の先食いによる消費低迷が予想される。政府高官も過渡期には一時的な景気後退もあるとしているが、IMFによると米関税策により世界GDPの消失額は110兆円と試算され、最も影響を受けるのは米国自身らしい。
さて、トランプ政権は一流のスタッフを集めているので、関税引上げの結果として消費減速、それに伴う景気後退も想定しているはずである。にもかかわらずトランプ氏が関税にこだわるのは、それらを犠牲にしても貿易赤字削減が大切だからだと思われる。まずはその貿易赤字について考えてみる。
これまでのような米国経済一人勝ちの場合、米GDP成長率が他の主要先進国を上回り、米消費の成長率も他国に比べ増加する。結果として、物価は上昇し貿易赤字も膨らみ続ける。通常はインフレ高進と貿易赤字拡大に加えて財政悪化が伴うと、トルコやアルゼンチンのように通貨安へとつながるが、基軸通貨のドルは下落しない。これは貿易赤字によるドル売り圧力を各国の外貨準備が補い続けるからである。ところが最近は、中国の台頭やウクライナ紛争などにより準備通貨としての米ドル人気は下落し、このまま貿易赤字が増加し続けると米ドル暴落と米国債の需給悪化による金利急上昇につながるリスクがある。つまりそれに見合った貿易赤字縮小によるドル売り圧力縮小が必要ということになる。更に、貿易赤字の削減は、輸入減少と輸出増加によりGDPを増加させるので、関税策により貿易赤字を削減できれば、GDP成長とドル余剰解消と財政健全化にもつながり一石三鳥だ。
また、物価に関して、米政府の説明通り関税による物価高は一時的な現象に過ぎない。足元の1年先インフレ予想は上昇しているが、一般的にインフレ率は前年比で計算されるため1年先は関税の影響が前年比ではゼロとなり、むしろ下落に転じる。加えて、関税により消費が鈍化すればインフレ率はさらに低下する可能性が高い。更に対米輸出が減少することで、ドル売り減によるドル高圧力も強まり、インフレの抑制効果が期待できる。
つまり足元のインフレ高止まりをバイデン政権による失政と関税引上げによる一時的なものとして片づけられれば、来年5月以降はトランプ政権の成果として貿易赤字削減によるGDP成長とインフレ鎮静化を主張できることになる。つまり、来年11月の中間選挙前に、国民の求める好景気と低インフレ(できれば財政健全化)を実現する必要があるため、猛スピードで関税策を進めているとも考えられる。
ところで今回の関税策の経済への影響は、世界貿易額の約1割を占める米国がその他全員に対し保護貿易策を執った形であり、地球規模で見れば仮に対米貿易が全て無くなっても1割減と、コロナショックの2割より小さい。但し、米国による関税引上げの影響に加え、他国の報復関税などの不透明さが世界経済を圧迫し、世界GDPを▲0.5%押し下げるとの試算がある。更に、日本の貿易額に占める対米の割合は全体の20%を占め、日本のGDPも▲0.5%低下と試算される。歴史を振り返ると、1930年代の米国主導による保護貿易策は結果的に世界恐慌を悪化させることとなった。今回のトランプ関税策は最終的に世界にどのような影響をもたらすのだろうか、不安感が高まる。
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