トランプ関税の行く末
トランプ大統領は突然、一部の相互関税を90日間延期するとしたが、90日後には結局関税による脅し再開も予想される。今回の突然延期の背景は不明だが、一説には関税率の計算式が間違っていたとの指摘もある。関税による弾性値が輸入品の場合は0.945と当然高いはずが、間違えて小売価格の弾性値0.25を使用したという説だ。仮にそれが事実だとすると、政策のあまりの杜撰さに驚きを禁じ得ないが、90日後には恐らく新たに計算した関税率が発表されよう。因みに弾性値を変えると日本の相互関税率は現状の24%から10%へ低下するらしい。計算ミスの真偽のほどは不明だが、いずれにせよ各国は米国に脅される都度あらたな貢物が必要となるなど、対米貿易は不透明として将来を見据えた投資などの動きは一旦凍結、或いは被害を最小限にすべく縮小も選択されよう。中にはフィリピンのように周辺国(ベトナムやカンボジア)より関税率が低いことで、対米ビジネス拡大のチャンスととらえる向きもあるが、対米貿易が増加すれば、貿易黒字拡大による相互関税強化が想定されるため、おいそれと対米貿易投資を拡大するわけにはいかない。結果として米国は鎖国状態に近づき、経済の発展は阻害される。但し冷戦終結後の一人勝ちの影響から、米国のGDPは世界の25%を占めるまでに拡大し世界経済に与える影響が大きくなり過ぎた一方、貿易赤字も膨らみ続け、もはや健全とはいえない状態に近づいた。
因みにトランプ政権が関税策の主要ターゲットとするのは、GDP第2位のライバル中国と見られる。表1は、米中の貿易状況。これを見ると、米国は対中貿易が消滅しても、輸入の方が輸出よりシェアが高く貿易赤字の削減効果が期待できる一方、中国は対米貿易が消滅すると輸入より輸出の方がシェアが高く貿易黒字の縮小が見込まれる。確かにトランプ関税は対中戦略が主目的と言えそうで、関税騒動により短期的に米GDP上昇、中GDP下落が予想される(*)。長期的には米中双方のGDPが減速する一方、その他国家が成長率を高める可能性もあり、トランプ政権は世界経済にとり必要悪と言えるかもしれない。
表1. 米中の主要国・地域別輸出入割合(%) 出所(JETRO)
米中の貿易戦争は、恐らく米国にとり中国の脅威を退けたと判断されるまで継続する。この間、米国による対ロ、対中経済制裁の結果が示すように、米国・中国は、新たな貿易相手の開拓や自国での技術革新など抜け穴を探すことになる。つまり、米中以外の国にとっては、米中の代替貿易相手となるビジネスチャンスでもある。因みに日本で期待できる代替分野としては、トップが電子・電機、その他製造業、鉱業と続く。同様に欧州、インド、韓国なども代替需要が期待できる。つまりこれらの国家を束ねた貿易圏を作れば、米中を相手としたビジネスが発展できることになる。ここでたたき台となるのが、地域的な包括的経済連携協定(RCEP:15か国)に加え、昨年英国が加わった包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP:12か国)だ。RCEPには既に中国が加盟しており、対中ビジネスの枠組み。CPTPPは米国が前身のTPPから離脱した経緯はあるが、関税策の言い出しっぺでもある米国とのビジネスの枠組みに利用すればよいだろう。既に欧州、中国は新たな貿易圏の主導権を握るべく動き始めており、日本政府も先を見越した早急な行動が望まれる。
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