米国超長期国債金利が上昇
2022年のロシアによるウクライナ侵攻に対する制裁として、西側諸国はロシアが保有する対外資産を凍結、親米派以外の国々は外貨準備として米ドル資産を保有するリスクに気付いた。更に足元におけるトランプ政権の政策は、関税を含め諸外国に対し容赦ないものが多いことから、標的とされる中国などは保有する米ドル資産の売却に動いたと思われる。実際、図1に示した日英中の米国債保有残高を見ると、中国が保有する米国債総額は、3月末時点で7,650億ドルと2010年代のピークである1.3兆ドルから一貫して減少している。
さて多くの国が、保有する米国債の売却に動けば、当然需給は悪化し金利は上昇する。加えて、トランプ減税が下院を通過したことで財政赤字拡大懸念も広がっており、投資家は英トラスショックを教訓として米超長期債への投資を手控えている。結果として、米超長期国債の金利は上昇基調にあり、スワップ金利を大幅に上回る。図2は期間30年の米国債とスワップ金利とそのスプレッド推移だが、2022年以降はスプレッドの拡大が続き、足元では国債金利がスワップ金利を90bps上回る。つまり、30年米国債をレポ取引を利用して購入、同時に30年スワップで固定金利払い(アセットスワップ取引)を組めば、米国債がデフォルトとならない限り、資金負担ほぼゼロで年間90bpsの利益を30年間見込める。このような環境下、多くのヘッジファンド(HF)がこの取引に参入、FRBによるとHFが保有する米国債残高は24年末に2.6兆ドルで、日本の保有残高の約2倍、発行残高に占める割合も過去10年で2%から10%に急増。結果的に、5割から3割に減った海外勢の保有分を穴埋めする。因みに5/21の米金利急上昇は、レポ取引の相手方に立つ金融機関がマージンコール(追加担保の差入れ要求)を迫ったのが要因の一つとされる。高レバレッジ取引が逆回転し、長期金利の急上昇を招いた形だ。ところでHFは、英語が公用語で、かつアジアと米国の中間の取引時間帯にあるロンドンに拠点を持つことが多く、図1にある英国の米国債保有残高の増加は、足元で7,790億ドルと今世紀に入って初めて中国を上回り、日本に次ぐ2位となるなど、HFの行動を裏付ける。
一方で米国としては、国債の買い手をHFに頼り続けるわけにはいかないため、ベッセント財務長官は銀行の自己資本比率規制である補間的レバレッジ比率(SLR)の見直しに言及。SLR算定の分母から国債が除外となれば、銀行はより多くの国債を保有できる算段だ。仮にHFが破綻となると、その市場への影響は1998年のLTCMショックが参考になる。LTCMはノーベル賞受賞者を擁して立ち上げた高度な金融工学を駆使したクウォンツ型ファンドの先駆けだったが、ロシアの財政危機を契機に高レバレッジ取引が破綻。銀行14行が出資する奉加帳方式での救済となったが、NYダウは約20%下落、JPYは145円→110円への円高となった。米国に限らず、今般の超長期金利の動きには注意が必要だ。
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