動植物も会話する
2017年、東京大学の鈴木准教授によるシジュウカラの鳴き声に関する研究が、米国の科学誌に掲載された。論文によると、シジュウカラは、単語を組み合わせて文法的な構造を持つ「言葉」を操るそうだ。また、チンパンジーやゾウも、単語を組み合わせたり、個体を特定する「名前」のようなものを使い分けてコミュニケーションしているとの論文が、スイスと米国の研究者によりネイチャーに掲載された。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは『言葉を操るのは人間だけである』と述べたとされ、また進化論で知られるダーウィンも、動物の鳴き声は単なる感情表現にすぎないと考えていた。しかし、近年の研究では、こうした見方が人間の理解不足によるものであった可能性が示唆されている。
動物だけでなく植物も話すようで、2023年に学術誌「Cell」に発表された論文によると、さまざまな種類の植物がストレスにさらされると超音波を発するといい、聞く方では、一般的な花はミツバチの羽音に似た音を聞かせるとより多くの蜜を作る。植物が捕食者から花粉媒介者まで、あらゆるものと「会話」していることを示唆する最新の証拠だ。また、植物は環境に反応するために、自分の根や茎、葉、花、果実の間でもコミュニケーションをとっている。例えば、植物の葉は捕食者の接近や光や音の変化を感知し、根は地中の状態(栄養分や水分、地中にもいる捕食者など)を監視する。米ウィスコンシン大学のギルロイ教授によると、植物の体内の信号は、私たち動物の神経系とは異なる配管のようなものの中を伝わるという。電気信号は、この配管の中を通る物質によって伝えられ、例えば、根が渇水を感知すると、葉に指示を出して水蒸気の放出を制限し水を節約する。また、周囲に育っているのは同族の植物、つまり自分の親類なのか、それとも他人なのかということを感知する植物があることもわかっている。浜辺に自生するオニハマダイコンというアブラナ科の植物の実験では、鉢植えでオニハマダイコンを見ず知らずの他人(他植物)と一緒に育てると栄養や水を奪い取るために根を長く伸ばすのに対し、兄弟姉妹のような関係にある植物と育てるとお互いに配慮して遠慮しながら根を成長させるそうだ。言わば親族ファーストといったところか。ただ、植物の場合は地面に根を生やしていることが多いため、環境や近隣住民が気に入らないからといって、人間のように追い出したり、おいそれと移住もできず耐えるしかない。対策として、種や胞子を風や鳥などに運んでもらい、子孫に新天地での繁栄と幸福を託している。
ところで拙宅には、比較的大きめのオリーブの木がある。5年に一度くらい(観察では恐らくアゲハチョウの幼虫が多い年に)実がなるが、それ以外の年は花は咲くものの実はならない。オリーブの木には雄雌が無く一つの花の中に雄しべと雌しべの両方を持つが、近親婚を避けるため、異なる株や品種の花粉で受粉する必要があるそうだ。そこで一昨年、DIYショップで小鉢のオリーブを購入し隣に置いてみた。1年目はお互いの開花時期がずれるなどで受粉しなかったが、昨年は開花時期が見事に一致し、多くのオリーブの実を収穫することができた。これが科学的に見て受粉条件の一致によるものなのはもちろんだが、個人的には、オリーブ同士が話し合い(一方は鉢植えなので接触はない)の結果互いに「気に入り」開花時期を合わせたのではないかとも思っている。購入した小鉢オリーブは「婿殿」と命名され、めでたく大きなオリーブの隣にちょこんと直植えされ、今年も仲良くオリーブの実をつけている。
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