ミラン論文を読む

トランプ大統領の一連の発言や政策は、「ミラン論文」を下敷きにしているとの指摘が多い。「ミラン論文」とは、米大統領諮問委員会(CEA)委員長で大統領がクグラーFRB理事の後任に指名したスティーブン・ミラン氏が2024年11月に書いた論文「世界貿易システムの再構築に関するユーザーガイド」。支離滅裂にも見えるトランプ政策だが、これを読むと理解できる部分もある。原文は40ページ程度だが、米国が今後進める戦略の「未来年表」として機能する可能性もあり、ここで要約してみる。

<問題意識と関税政策>

米国は過去の国際協調の結果、経済的不均衡と不利な関税構造に苦しんでいる。トランプ氏は貿易システム改革により貿易赤字を削減し、米産業が世界に対しより公平な立場に立てるようにしたいと考えている。経済的不均衡の根源は、準備資産に対する非弾力的需要により引き起こされているドルの過大評価にあり、それは製造業部門を恒常的に苦しめてきた。また、不利な関税構造の結果、特に中国との貿易などで米国は大きな雇用喪失を被ってきた。トランプ1期目では、対中関税が人民元安により吸収され、米国は物価上昇を引き起こさずにGDP成長と貿易赤字削減に成功したと評価している。関税コストは結果として中国の通貨安による購買力低下によって支払われたとしており、2期目は関税対象を全世界に広げると考えられる。→現在はこの段階。今回もまだインフレは顕在化していない。

<米財政赤字は持続不可能>

23,24年度の財政赤字はGDPの7%に達しており、このままでは社会保障信託基金が2033年に枯渇して財政破綻となるリスクがある。→より広範囲の関税による収入増で埋め合わせる算段。

<準備通貨のパラドックス>

外国中央銀行が準備通貨として米ドルを購入するため、米国は恒常的に金余りで過剰消費となる。通常は貿易赤字と経常収支の双子の赤字が通貨安を招き調整されるが、準備通貨の場合は割高に放置される。加えて、世界のGDPに占める米国の割合は1960年代の40%から26%へと低下したことで、外国の準備通貨ニーズが米国の双子の赤字を相対的に増大させる。したがって、外国が米ドルとして保有する準備通貨を漸近的に減少させる必要がある。関税は米ドル高に寄与するため、外国の準備通貨売却によるドル安圧力がそれを緩和するはず。→中国やグローバルサウスを中心に米ドル離れ進行中。

<マールアラーゴ協定>

外国は米国の提供する安全保障費用を負担すべき。具体的には、安全保障を提供する代わりに外国は準備通貨を世紀債、あるいは永久債で保有する。準備通貨量を調節するため、米国は外国が保有する債券の利息にユーザー料金を課すので米ドル離れは加速。つまり米国の友人は安全保障と経済の傘の中にいるが、より多くの負担を分担する。一方、友人でなければ安全保障の傘の外に位置しており、今後米国の要求に従うまで関税を含めた積極的なコストを段階的に引き上げる。結果として通貨のボラティリティーは上昇する。また米ドルからの逃避先として、金や暗号試算などの代替準備資産は恩恵を受ける。

→トランプ氏や関連企業は暗号通貨をすでに大量に購入済。

<感想>

論文は米国の双子の赤字が論点で、解消方法として関税と準備通貨制度の改革を提案している。目的のために友好国と非友好国とを区分、友好国への負担増で当面乗り切り、次に非友好国への圧力を段階的に強めるというもので、世界平和や人類の発展などは眼中にない印象だ。

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