温暖化ガスゼロ

菅首相は、所信表明演説の中で2050年の温暖化ガスゼロを打ち出した。2011年の東日本大震災により日本の電力供給源が原子力から再び火力へと揺り戻された結果、現在の日本の電源構成比のなかで火力が占める割合は77%に達し、脱炭素では欧米中などに大きく出遅れている。石炭・石油を燃やすと温暖化ガスである二酸化炭素(CO2)を発生するが、代わりに自然エネルギーなどを利用して脱炭素を実現するには2050年までに約340兆円が必要との試算もある。ここで筆者はキーとなるのは水素だと思う。

まずCO2増加が地球温暖化につながる理由だが、これは太陽光で暖められた地表から熱が宇宙へと拡散する際に、空気中の水蒸気やCO2がそれを妨げる現象、いわゆる温室効果が生じるため。

そもそも石油、石炭や有機ガス(例えばメタンガス:CH4)などは基本的に炭素(C)と水素(H)でできており、これを燃やすとCO2とH2O(水)になる。つまり炭素を含まない水素のみを燃やせば排出されるのはH2Oだけとなり、水素がクリーンエネルギーと言われる所以だ。また宇宙で最初にできた元素は水素と考えられ、いまだに宇宙空間には大量に水素が存在するため化石燃料のように枯渇する心配はない。例えば、太陽は水素からヘリウムへの核融合反応によりエネルギーを生み出しており、究極のクリーンエネルギー機関とも言える。

それでは人類も水素を利用すればよいということになるが、そこには生成と保管、移送方法などの問題がある。生成には化石燃料から作る方法や水から作る方法(電解法)があるが、副生物としてCO2が発生したり、大量の電気を使うなどの問題をクリアしなければならない。また水素は常温では気体なので効率的に保管するには高圧にするか極低温にして液化して体積を小さくする必要がある。ちなみに燃料電池車(FCV)で使われる水素タンクの耐圧は、通常のガスタンクの2倍以上となる350気圧もある。また水素は燃えやすいが、高圧で移送する必要があるため漏れやすく、爆発の危険性がある。水素を使用した飛行船ヒンデンブルグ号が静電気で爆発した事故は有名だ。

現在、太陽のような水素の核融合反応を実用化する技術では米国がリードするが、FCV開発では日本が先頭を走る。また日本はFCVの実用化に必要な保管、移送等の問題やFCV用の水素ステーションなどインフラ整備の課題にも積極的に取り組んでおり、今後世界が水素社会へと向かって行く際に先頭ランナーとなるポテンシャルを持っている。最近日本が世界に誇る最先端技術は少なくなったが、菅首相の温暖化ガスゼロ宣言は官民挙げて水素関連などの技術革新を進める決意とも受け取れる。 

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