欧州経済

今年に入り欧州では以下に挙げた材料等の影響により通貨や株の頭が重くなりつつあるようだ。

①ワクチン接種が遅れ気味…EUが一括購入し各国に割り当てるため一部国でワクチン不足に

②伊で連立政権の一部が離脱…上下院でコンテ首相の信任が辛うじて決まるも難しい政権運営続く

③独メルケル首相が9月に引退…先行したCDU党首選は親メルケルのラシェット氏勝利

④ノルドストリーム2に米政権が不満表明…露から独へのパイプラインで米の対ロ制裁と整合しない

⑤東地中海のガス田権益でトルコと対立…国境が画定しない地域でトルコが採掘、ギリシアなどと対立

②③の内政問題を除けば欧州経済全体を揺るがすほどの材料とは思えず、③④⑤などは以前から抱えるもので、どちらかと言えばこれらの問題を発端として欧州の結束が乱れ、欧州復興が停滞することを市場は警戒していると思われる。

欧州はリーマンショック以降、ギリシャや南欧の財政危機の影響で通貨や株(独株は堅調だが)は日米に比べ弱含み(ネガティブプレミアム)で推移している。その問題点として統一通貨の金融制度が挙げられる。つまり欧州ユーロ圏は様々な国の集合体であるにもかかわらず通貨はユーロで統一されており、国毎の金利操作ができない一方、通貨供給量や財政政策にも制約がかけられ国債発行にはソブリンリスクが上乗せされる。

ここでギリシャショックを例として考えてみる。ギリシャの財政破綻懸念で通貨ユーロが下落、通貨安で独の自動車など輸出産業の利益は増加し独の貿易黒字は拡大。一方ギリシャは、通常であれば自国通貨下落を受け、ハイパーインフレとならないよう金利調節を行いながら、輸入が減少するのに対し国内生産や観光収入などの上昇により財政再建を進める。ところが独などの好調な経済の影響で通貨安が進まず、加えてソブリンリスク急騰にもかかわらずEUにより金融政策や財政政策の手足を縛られており、復興計画が思うように策定できなかった。通貨を共有する一つの国家であれば、経済不振の地域に対し国が財政面などの支援を行うが、欧州GDP1位の独が当時はギリシャ支援に対し後ろ向きだっただけでなく、自国の財政支出拡大も不要として拒否。結果としてデフォルト寸前だったギリシャは、大幅な緊縮財政を条件にIMFとEUからの救済プログラムにより時間をかけて再生した。このような統一通貨の問題点に対し、今回のコロナショックでは、EUは昨年末1兆ユーロの欧州中期予算案や7,500億ユーロの欧州復興基金、および財源としてソブリンリスクが低い欧州共同債の発行など、欧州一体となってコロナ禍で痛んだ経済の再生を目指すことを決定。ギリシャショック時とは異なり統一通貨に見合った政策であることに加え、これらの仕組みが独のリーダーシップにより推進されたことが、将来的なユーロ圏の安定化へとつながると期待されている。

①に関してはワクチンの各国割当てが人口ではなくEUへの資金拠出額により配分されることが問題だが、EU一体となって妥協点を探す模様。②③の政治リスクに関しては、伊では僅差ながらもコンテ首相の信任が決定、独でも9月の新首相に横滑りするわけではないが、取敢えずCDU党首が親メルケルとなったことでいったんリスクは後退。④⑤に関しては米新政権を含め今後の関係各国との調整が期待される。実際に復興基金や共同債などが実行に移され。その効果が顕在化してくれば、長年のネガティブプレミアムが減価し、通貨ユーロと欧州株式全般の上昇が予想される。

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