積み上がった貯蓄が向かう先

日本の家計が保有する金融資産は、コロナ禍の下で消費や外出を手控える中、政府支援もあり手元資金は積み上がっており1,948兆円と過去最高を更新、タンス預金も100兆円を突破した。これは日本だけの現象ではなく、2020年1~9月に世界の富裕国21ヶ国の個人貯蓄は6兆ドル増加しており、この額は同21ヶ国の年間消費支出約30兆ドルの20%に相当する。通常の景気後退局面では家計が短期間にこれほど多額の貯蓄を積み上げることはなく、この21ヶ国の通常の個人貯蓄年間増加額が3兆ドルであることを踏まえると、差額の3兆ドルがコロナ禍により余分に貯蓄されたことになる。今後感染の収束に伴い、この過剰貯蓄と抑圧された消費活動が一気に解放されることが想定されるが、その状況を想像する上では第2次大戦後の米国が参考となる。戦時中の米国ではあらゆる物資が配給制となり、戦時下の1943年の自動車販売は139台にとどまったが、1950年には戦後の消費ブームに乗り年間の自動車販売台数は800万台を越えた。当時抑圧されていた自家用車保有の欲求が爆発した形だが、今回のコロナ禍であれは①旅行、②外食、③消費といったところが考えられる。つまりアフターコロナとなり積み上がった貯蓄が向かう先として収益回復が見込まれる業種は、航空機やホテルなど観光関連、レストランや居酒屋、デパートなどの小売関連となる。ここで足元における米国の旅客航空輸送業株価指数、ホテル・レストラン指数、S&P500指数および2019年の都市別海外旅行客数世界2位のバンコク(ちなみに1位は香港)を抱えるタイの住宅価格をコロナ禍前の2020年1月を1として図1に示してみた。

これを見るとS&P500はコロナ禍前をすでに上回り最高値を更新しているのに対し、ホテル・レストラン指数はようやくコロナ禍以前の水準を回復。一方で旅客航空輸送業指数はまだ世界的に海外旅行が制限されていることから、コロナ禍以前の水準まで戻していない。今後、コロナ鎮静化が進めば世界中の人々が我慢していた海外旅行を再開することが想定されるが、実際、ワクチン接種が進む英国では政府が6月21日のロックダウン解除目標を示したとたん、夏季休暇パッケージの予約が前週比6倍となった。アフターコロナが現実となれば、航空機やホテル・レストラン産業だけでなく旅行客数世界2位のバンコクに旅行客が殺到、タイの住宅や土地の価格がインバウンドで急上昇となるかもしれない。

 ところで2019年4月に当欄で日本のデフレの元凶として取り上げたタンス預金額は約50兆円だった。つまりここ1年で増加した約50兆円はアフターコロナで消費にまわる可能性があるが、果たしてデフレ脱却となるだろうか。

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