日本の物価は上がらない?

GDP世界1位の米国4月の消費者物価指数(CPI)は前年比4.2%、GDP2位の中国は同0.9%、ユーロ圏も同1.6%と世界的にインフレの足音が近づく中、日本は同▲0.4%と直近7ヶ月間マイナスが続く。日本国内だけを見ると2000年以降CPIがマイナスとなる所謂デフレ期間が継続しており最早違和感はないが、グローバルな視点から見た場合、GDP3位の国が主要国の物価上昇に対し逆行を続けるのは不思議に見える。ここで物価低迷の背景を考えてみよう。

30年前の日本は自他ともに認める物価高の国で、世界中の高級デパートが日本人観光客であふれ、また地価の上昇は凄まじく、山手線内側の土地だけでアメリカ一国が買えると言われたほどだった。現在は、その後の30年間に世界中でインフレが進行する中、国内ではデフレが続いた結果、日本は先進国において目を見張るほど物価の安い国となった。国内物価を諸外国と比較する場合、モノサシとして世界中で流通しているモノの価格を比べると分かり易い。例えば、東京ディズニーランドの入場料は8,200円と世界最安で、米カリフォルニア(1万4,500円)どころか、パリ、上海、香港よりも安い。グローバル展開している100円ショップのダイソーの均一商品(税抜き)価格で比較すると、日本の100円は、豪州(220円)、米国(160円)など先進国は言うに及ばず、タイ(210円)、中国(160円)、ブラジル(150円)などの新興国よりも安い。さらに購買力の目安として有名な「ビッグマック」の単価で見ると、日本の360円(3.30ドル)は、世界最高のスイスのほぼ半分で、タイやスリランカよりも低く先進国では最低となる。このように購買力平価の観点から見ると、世界中から観光客が日本に殺到し、商品が棚から蒸発、需給ひっ迫から物価高となっても不思議はないと考えられるが、実はそうはならない可能性もある。

表1.日米の2019年8月のCPI(前年比パーセント)   出所 (総務省、米労働統計局)

総合CPI コアCPI 財(モノ)CPI サービスCPI

日本 0.3% 0.6% 0.3% 0.2%

米国 1.7% 2.4% 0.2% 2.7%

ここでコロナ禍以前の2019年8月のCPIを日米で比較したのが表1。これを見ると総合CPIだけでなくコアCPI(日本が輸入に依存するエネルギー、食料品を除く)においても日本の低さが目立つ。さらに細かく見てみると、財(モノ)価格のCPIは日米で概ね同じ上昇率だが、サービス価格のCPIには大きな差があることが分かる。サービス価格には、外食、ホテル、鉄道料金や携帯通話料などが含まれる。つまり日本の物価上昇率の低さは、サービス価格の低迷、言い換えれば日本人が自らの労働対価(賃金)を削ることで実現してきたとも言え、実際、平均賃金の推移を見ると30年前から低下している。財(モノ)の価格は輸出入(貿易)により世界的な価格均衡点に近づくが、サービスは輸出入の対象にはならない場合が多くなかなか修正されない。上記例では、ディズニーランドの入場料だけでなくビッグマックの価格差も実は賃金差によるところが大きく、米マクドナルドの時給は約2千円と日本の倍である。つまり日本で物価上昇を実現するためには、賃金上昇が必要ということになり、難易度は高い。

さて外国人が日本の物価安の恩恵をフルに満喫するにはやはり来日するのが一番であり、昨年、国内の旅行会社が欧米豪の居住者に「コロナ後に行きたい国」のアンケート調査した結果では、1位米国に続き日本は堂々の2位となった。嬉しい反面、低賃金の証と思うと悲しい気持ちになる。 

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