日本ではイノベーションが起きない
日本は、コロナショック前から財政支出拡大による景気刺激策を継続的にとっており、政府の借金はGDPの2倍以上となった。ケインズ経済学に基づけば景気はとっくに回復していてもよさそうなものだが、GDP成長率は相変わらず低い。その理由として種々指摘されているが、代表的なものとしてイノベーションの欠如がある。ケインズも結局のところ経済を成長させるのはアニマルスピリットと書いており、経済成長のためには国や企業のイノベーティブな行動が求められるようだ。つまり日本の低成長はこのイノベーション欠如に原因があるという指摘だが、その理由を考えてみる。
まずイノベーションが起きる要因としては以下のようなものが挙げられる。
①社会的需要…環境変化などで社会的にイノベーションが求められるケース。1970年代の石油ショックではエネルギーの効率化が求められ、車の低燃費化を目指したホンダはCVCCエンジンを開発した。
②学力…高度な知識と技術力に基づく特許取得など知的財産の積上げとその応用によりイノベーションを追求する。日本は1980年代以降、有能な技術者、研究者を擁し世界の半導体産業を一時席巻した。
③マネジメント力…既存技術の応用やパッケージングにより魅力的商品を作り出す。ステレオの小型化からウォークマンが生まれ、電話とPCの融合によりスマートフォン(スマホ)が生まれた。
④国策…国が特定分野をターゲットに、大学や政府外郭団体、企業などに対し研究開発費や補助金の投入を行う。米国において国防産業から派生したインターネット関連や中国の鉄鋼・鉄道企業の躍進に代表される。
あらためて現在の日本を見てみると、①社会的需要として、足元では脱炭素がある。当初日本は太陽電池や2010年の世界初の量産型電気自動車(EV)、2014年の燃料電池車発売など世界をリードして来たが、米・中政府によるEV推進政策(要因④)、先進国間の技術力を結集した新型電池の開発競争(要因②)、およびそれらのパッケージング戦略(要因③)などにより遅れをとる。
②学力においては、1990年代に受験戦争、詰込み学習への反省からゆとり教育へと転換(要因④)。その結果、今では大学受験は中国や韓国の方が日本より厳しくなるなど、学力の優位性は低下。特許出願件数でも米中の後塵を拝しており、結果としてイノベーティブな商品が生まれづらい。
③マネジメント力に関しては、1980年代のビデオにおけるVHS・ベータ戦争が米国MBAの教科書の題材になるなど、かつての日本企業は企業戦略のお手本だった。今ではEVだけでなく、スマホのようにアイデアとして企画に上がりながらもマネジメントがその可能性を見抜けず、結局他社に先を越されてしまう例もある。最近は企画力と社内体制の劣化によりアイデアさえ出て来なくなったようだ。
④国策に関しては、例えば脱炭素関連に米国が200兆円、欧州120兆円に対し、日本は2兆円と桁違いに少ない。これは多額の政府債務に加え、政府支出の約4割を社会福祉関連に費やしているため、余力がないことがある。
こうしてみると、日本では①から④の各問題点が複雑に絡み合っているように見える。一方で足元の財政支出では社会福祉関連のシェアが突出して高く、これは深刻化する少子高齢化問題などの社会的需要に対し多額の国策支出を既に実行していると見ることもできる。つまり、これからのイノベーションはこの分野、医療福祉関連が期待できそうである。
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