会社分割への期待
このところ日米で大企業による会社分割(スピンオフ)が相次いでいる、米国では11月9日にゼネラルエレクトリック(GE)が「機械エンジン」、「医療機器」、「電力」の3分割を、12日にはジョンソン&ジョンソン(J&J)が「消費者向け事業」と「医療向け事業」の2分割を発表。日本では東芝が12日に「インフラサービス」、「デバイス」、「資産管理」の3分割を発表した。背景には傘下に異なる事業を展開する複数の関係会社を持つ企業の場合、経営者は各事業に対し適切な経営判断をしづらく、当該企業の価値は事業ごとの価値合計に比べ過小評価される(コングロマリット・ディスカウント)問題がある。会社分割により、存続会社と分割先会社の双方とも企業価値の向上が期待されるとされ、米国では最近においても、ダウデュポンやイーベイなどの成功例がある。日本では従来、業務の多角化を狙うM&Aにより、所謂会社の肥大化が主流だったが、2017年の税制改正(スピンオフ税制)により会社分割の動きも出始めた。足元では、2019年のコシダカホールディングズに続き2例目として、以前、米国の原発大手を買収した東芝が今度は会社分割に動く。
S&P500 GE J&J TOPIX 東芝
PER(倍) 22.46 50.19
16.7 14.9 14.3
PBR(倍) 4.84 2.99
6.12 1.29
1.94
分割により存続会社の経営者は中核事業に専念できるほか、分割会社は経営の自由度とスピードが増すうえ、それぞれの企業分野に向いた投資家資金を引き寄せることで適正な株価評価を受け易くなるなどスピンオフ効果への期待は大きい。米国のスピンオフ企業で構成する指数は、2006年末の算出当初からの上昇率は5倍で、同期間のS&P500の3.3倍をアウトパフォームする。
ところで近年の技術進歩は目覚ましく、企業の新規進出分野としてよく目にする、AIやブロックチェーン、量子コンピューター事業なども、理系出身の筆者ですらその概要を理解するのは容易ではない。量子力学でノーベル賞を受賞したファインマン博士は「量子力学を理解できたと思ったなら、それは量子力学を理解できていない証拠だ」と述べており、先端技術の本質を理解するのはかなり難しそうだ。因みに現在の日本企業で最も多くの子会社を抱える企業の子会社の数は約1,300社。仮に子会社の経営会議を年1回としても、親会社トップは1日当たり4社分の経営判断をする計算になる。いくら経営トップが優秀でも、またそのすべてが先端分野の事業でないにしろ、子会社経営のスピードが遅れ気味になるのは仕方がなかろう。
一方、会社分割により事業内容をよく理解する経営者が主体的に経営を担うことで、企業価値の向上が見込めるケースは多そうだ。日本の大手企業は優秀な人材を多数抱えており、分割先会社のトップとして期待値の高い人材は豊富に見える。最近、日本の労働生産性が低い一因として高齢社員のコスト高を指摘する声もあるが、分割先会社の経営者として再活躍することで、労働生産性の向上も期待できよう。かつて多くの子会社を抱える巨大企業として知られた日立は、2018年に子会社を4割減らすとして子会社売却を進めた結果、その後の業績は好調であり株価も堅調だ。今後、日本の大企業を活性化する処方箋は、会社分割かもしれない。
0コメント