ウクライナ情勢
ウクライナを巡り、ロシアと米欧間の緊張状態が継続している。市場では既に地政学的リスクへの警戒感から小麦、天然ガスなどコモディティの価格が大幅に上昇。世界の小麦輸出に占めるロシアのシェアは2割、ウクライナが1割を占め、また欧州はガス輸入の約3割をロシアに依存しており危機感は高まる。
経緯 ここで今回の危機に至る経緯を見ると、ウクライナのゼレンスキー大統領の人気取りが発端と考えられる。同氏は低迷する支持率の回復を目指し、ドンパス地方(ウクライナ東部、親ロシア派が実行支配)の自治権奪回とクリミア半島奪還およびNATOへの加盟に動いたことに起因する。これに対しロシアは、2015年にドンパス地方の自治権を認めた「ミンスク合意」に違反するとして反発。加えてウクライナのNATO加盟は西側諸国との緩衝地域が無くなるため断固として阻止する構えであり(1962年のキューバ危機の逆)、事実上、西側に対し1990年の東西ドイツ統一時の口約束とされるNATOの東方拡大自制の再確認を求めている。一方のウクライナは、親ロ派のドンパス政権誘導によるロシア軍侵攻リスクへの危機感に加え、クリミア紛争後に停滞が続くウクライナ経済の打開策として、ハンガリー、ポーランド、チェコなど旧社会主義国家のNATO加盟後の経済発展に倣いたい気持ちもあろう(図1参照)。また米欧は、クリミア半島の一方的な併合を進めたロシアが1994年にウクライナの独立を認めた「ブタペスト覚書」に違反していると主張する。
今後 ロシアはウクライナ国境沿いに約19万人の部隊を配備、隣国のベラルーシではロシア軍とベラルーシ軍が合同演習中であり、ウクライナ侵攻に必要な軍事力は揃った模様。春になり気温が上昇すると道路がぬかるみ、部隊の移動には適さなくなるが、友好国である中国に配慮して五輪終了を待つ目論見とも考えられる。実際、2014年のクリミア半島への軍事侵攻もソチ冬季五輪の閉幕(2/23)直後だった。万が一ロシア軍がウクライナに侵攻しても、NATO軍はロシアとの直接戦争を避けるため軍事介入はせず、西側諸国としては経済制裁により対処する見込み。具体的には天然ガスやハイテク部品などの輸出入制限、金融取引制限、資産凍結などが想定され、ロシアは制裁を見越して中国と天然ガスの追加供給で合意、急激な経済悪化を回避する算段。先週にはロシア軍がウクライナ国境付近から一部撤収したと伝わり緊張緩和への期待感が高まったものの、直後に欧米から軍事面のリスクは低下していないとの見解が発表され、依然として先行きを楽観できない状況が続く。
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