上昇するエネルギー価格
新型コロナ禍ピークアウトによる人流、物流の活発化でエネルギー需要が上昇するのに対し、化石燃料産業への設備投資が昨今注目度の高まる温暖化対策から下火となり、結果的に原油需給がひっ迫。そこにロシアによるウクライナ侵攻が加わり、原油のみならず天然ガスなどエネルギー価格全体が急上昇、天然ガスは過去最高値、原油は11年ぶり高値をつけた。このため、米国ではシェールオイル増産、日欧では原発再稼働などの動きが出ているが、目先の需給はウクライナ情勢次第となるのは明らかだろう。ここで原油と天然ガスに関し、世界の生産・消費状況、特にロシア経済圏(CIS*)のシェアを見ることで、今後の展開を予想してみる。
<原油>
表1を見ると原油生産ではCISは地域別では中東、北米に続く3位であり全体の15%を占める。一方消費は、国別では中国が断トツトップで米国16%、インド5%と続く。ここで西側による経済制裁に伴いCISの生産量のうち自国内消費分6%を除く9%を中国向けに輸出、つまり中国消費分26%のうち1/3程度をCISからの輸入に切替えたとする。この場合、従来の中国向け輸出分を他国に振り向ければ数量的にはバランスするが、貿易相手の再編には時間がかかり、結果的に原油高は中期的に続こう。また長期的には、中国がCISから安価に購入することで、結果としてCISが損を被ることになる。
<天然ガス>
表2の天然ガスの生産では、CISは北米、中東と共にTOP3の位置にある。一方消費は北米、アジアに続き中東と欧州と共に3位に並ぶ。現状では、CISの生産から自国消費分を差し引いた6%は、欧州の消費超過分8%の約8割に充当されている。経済制裁に伴いCISが生産余剰分を中国の消費超過分(3%)に振り向けても、なお3%余るため、他国に売却しない限り生産過剰となる。つまり制裁下においても引続き欧州がロシアから天然ガスを輸入することは、双方にとって都合の良い妥協策となる。今後、CISの天然ガスを欧州が購入しない、あるいはCISがガスを減産した場合は、原油以上に天然ガスの価格上昇が長期化するリスクがある。ちなみに日本の天然ガス消費は全体の3%、このうちロシアからの輸入は1割以下にとどまり制裁の影響は小さい。一方でサハリン2からは市場より割安に調達出来ているようで、権益を失うことによる損失は約1.5兆円と試算される。
因みに、世界の小麦生産の1割をウクライナ、2割をロシアが占めており、今後、ロシア侵攻による生産の停滞に加え、経済制裁による輸出の分断も予想され、小麦価格の上昇は必至だろう。
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