脱炭素とエネルギー事情

地球温暖化対策として二酸化炭素(CO2)排出量を減らす脱炭素の取組みが続いており、発電であれば各国が風力や太陽光など自然エネルギーの比率を引上げ、自動車であればEV化を進める。一方で急激な移行は社会全体の対応が必要となるので、例えば欧州委員会では大量の化石燃料を使う産業に配慮し、少しでもCO2排出を減らすため天然ガスをグリーンエネルギーに分類、石炭・石油からのシフトを進めていた。ところが、ウクライナ危機により天然ガスの域内消費量の約40%を依存するロシアからの輸入を削減する必要が生じ、代替エネルギー源として東日本大震災以降封印していた原発をグリーンエネルギーに認定し再活用を計画する。こう見るとご都合主義的な印象を受けるが、そもそも欧米や中国がEVを推進する背景には、日本が技術力と実績で大きくリードしていたHVやPHVでの戦いを避け、技術的に有利なEVを推進しているとの解釈もある。因みにEV化を推進する中国では、今後EVの急速な普及による電力不足が懸念される。一方で中国は国内電力消費の5割を石炭発電に依存しており、現状の政府計画通り石炭発電所を増設した場合、EVのCO2削減効果を石炭発電のCO2排出が相殺、全体的なCO2排出量削減効果は限られるようだ。つまり欧州にせよ中国にせよ脱炭素のためには発電方法の見直しが必要ということになる。

ここで改めて天然ガスがどの程度グリーンかを調べてみると、CO2排出量は単位発熱量あたり石炭の55%、原油の74%と桁違いにグリーンというわけではない(表1参照)。いずれも炭素Cと水素Hの結合体で、その燃焼過程(酸化現象)で炭素がCO2、水素がH2Oになるのは同じであり、投入量が同じであれば排出されるCO2の量もほぼ同じ。つまり相違点は生産されるエネルギーの効率性の差であり、石炭や石油は炭素の多重結合体であり結合を解くのに相応のエネルギーを消費するのに対し、天然ガスの9割は構造が単純なメタン(CH4)なため、結合を解く過程であまり浪費されず効率が良い。

次に発電過程でのCO2排出量がゼロとして欧州でグリーンエネルギーとされる原発だが、燃料であるウランの採掘、精製、濃縮、加工から発電所等の設備の製造・建設・解体、さらには放射性廃棄物の処理・輸送・処分などライフサイクル全てを考慮すると問題は複雑になる。原発におけるCO2排出量は、ガス拡散分離法による燃料となる濃縮ウラン製造過程において発生するものが過半だが、日本で開発された遠心分離法を用いれば、排出量を大幅に削減することが可能となる。また発電所の新設に関しては、現在停止している原発を再稼働することで、大幅にCO2発生を抑えることができる。

もちろん放射性廃棄物問題は引続き残るため、究極のエネルギーとして将来的には太陽と同じ核融合技術の実用化が待たれる。 

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