日本の財政とインフレと円安

政府はウクライナ危機に伴う物価高対策としてガソリン補助金など2.7兆円の補正予算を組み、全額を赤字国債で賄う方針。国の借金がGDPの260%となる1,200兆円にまで膨らむ現状、2.7兆円増も誤差の範囲内、もはや一般国民も「あーそう」という感覚に近く、かつて国の借金がGDPの200%超えとか、国民一人当たりの借金900万円などと警鐘を鳴らしたマスコミも最近はさほど騒がない。このような状況下、金融審議会の老後2,000万円問題を契機として盛り上がる若年層全般の投資先は米国株が多いようで、海外資産への投資が恒常的円売り圧力となっている。因みに数年前に社会人になった筆者の長女も「政府に借金を返済する気はない」と看破、IDECOの投資先はドル建て米国株を選択した。

さて、このような借金大国の国債を誰が購入して政府の借金積み増しを支えているかというと、日銀である。教科書的には国が過剰に借金しようとすると国債金利が上昇、結果的に借金抑制効果が働く。ところが日銀はYCC政策に基づき、指値オペで10年国債の上限0.25%を超える分を全て購入するので、結果として10年4月債の7割以上を保有、政府はあたかも固定金利で無尽蔵に借金が可能となった。ところで日銀は国債購入の原資をどのように手当てしているかというと、ここ10年で日銀の国債保有残高は500兆円増加しているのに対し、日銀券の発行残は30兆円程度の増加に留まっており、購入原資は専ら市中銀行が日銀に預ける当座預金である。当座預金の源泉は個人金融資産2,000兆円と企業金融資産1,200兆円であることから、まだまだ国は借金を増やせそうだ。つまり国民一人当たりの借金と言うより、国民一人当たりが保有する国への債権が900万円と言えよう。ところでこのシステムの弱点はインフレだと容易に想像がつく。貨幣価値が下落するとなれば、人々は現預金ポジションを異なる資産へと乗り換え、日銀当預が減少し国債購入の原資は枯渇する。つまりインフレになると金利が上昇し、それがさらに政府の利払い負担増を招く。一方で日銀の研究では、インフレは実質政府債務を軽減する効果もあり、名目金利を低く抑えている限り政府の利払い負担増を債務軽減効果の方が上回るとされる。ここで4月のインフレ率を見ると前年比2.5%と上昇基調が鮮明、マイナス金利政策との組合せは日銀の目論見通りではあるものの、トルコ(インフレ70%・政策金利14%)と同じ実質金利引下げ策により、トルコリラと同様円安を誘発している。

 日本国民は、20年以上続いたデフレの中で、もみ合いを続けた日本株への投資はそこそこに、大半の資産を現預金で保有するというリスク対比で賢明な選択をしてきた。足元では、上述のようなインフレと国の信用リスク拡大とが同時に進むリスクを敏感に感じ取り、米株投資などで円資産からの逃避行動を緩やかに選択しているのかもしれず、それは円安圧力を加速する。しかも財政赤字状態でのインフレと通貨安の組合せは、低金利によって加速し易い。また政府は参院選を控えガソリン補助金などでインフレを抑え込むが、これも本来の価格上昇に伴う需要減退効果を抑制し国民のガソリン消費を喚起、結果として円安は加速する。

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