日本の実質賃金上昇率は高い
世界的に物価が上昇する中、デフレの代表格である日本にも徐々にインフレの波が押し寄せつつあるが、賃金上昇が物価上昇に追い付いていないことからインフレは長続きしないとの解説を良く耳にする。厚生労働省では毎月勤労統計において「実質賃金=名目賃金指数を消費者物価指数(帰属家賃を除く総合)で除したもの」を算出し公表しているが、物価上昇を反映し4月以降の実質賃金は前年比マイナスに落ち込み6月も同▲0.4%だった。マイナスということは、賃金上昇が家賃や住宅価格の影響を除いた物価上昇に追い付いておらず、実感する生活は苦しくなっていることを示す。しかしながら、実は日本の実質賃金上昇率は、現状、先進国の間でも高い方となる。ここで先進国の.実質賃金を比較したものが表1。
表1では簡易な算式、「③実質賃金上昇率=①名目賃金上昇率-②消費者物価上昇率」を採用し、直近のデータを用いて前年比ベースを計算した。比べてみると、欧米では物価の急上昇に名目賃金上昇率が追い付いておらず実質賃金は低下、国民の実感する物価上昇は深刻になりつつある。最近は政府のインフレ対策の遅れに国民の不満が集中、結果として政権支持率が低下、中にはトップが辞任に追い込まれるケースもある。一方、日本の実質賃金上昇率は欧米よりも高く前年比▲0.2%と、今のところ物価上昇にそれほど遅れてはいない。岸田首相の支持率も、足元では新型コロナ感染再拡大を受けやや低下したものの、欧米各国に比べれば安定している。物価上昇が抑制され実質賃金の低下が小さいことも高支持率に貢献していると考えられる。
さて、日本の実質賃金上昇率が欧米より高い理由は、基本的に日本の消費者物価上昇率(CPI)が低いことに起因する。そしてその背後には、長期に渡るデフレ下での日本人の節約志向の強まりや以前この欄で指摘した日本の企業は原材料価格の上昇を企業努力で吸収しようとする傾向があることなどが挙げられる。ただしロシアによるウクライナ侵攻が始まった2月から約6ヶ月経過し、為替の円安の影響もあり、そろそろ日本のCPIに円建て石油価格上昇の影響が現れる時期である。加えて、川上の6月国内企業物価上昇率(PPI)は前年比9.2%と他国と変わらない高水準となり、企業努力で吸収できる限界を超えつつあるようで、巷の値上げ品目は急増している。今後日本のCPIも上昇していくと予想される。
一方で名目賃金上昇率のみを比較した場合、日本は欧米に劣後している。日本人の賃金は国際的に見て、円安も手伝い相対的に一段と安くなっているわけで、引上げ余地は大きいはずだ。今後日本のCPI上昇が予想される中、名目賃金もそれに歩調を合わせて上昇するかが注目される。仮に上昇が実現しないと政策への不満から、日本でも欧米のように金融政策変更への政治的な圧力が強まるかもしれない。
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