日銀金融政策の行方

最近の日本の消費者物価指数(CPI)は4ヶ月連続で2%超と上昇傾向にあり、8月は3%に迫ると予想され、政府によるエネルギー補助金の影響を除けば実質ベースでは3%台半ばまで上昇していることになる。一方で新聞の解説記事を見ると日本の実質賃金は足元ではマイナスであり、日銀が金融引き締めに転じるのは時期尚早との指摘もある。

実質賃金は、(=名目賃金-CPI)により求められる。図1を見ると、確かに実質賃金は今年3月までプラスだったものが、足元ではCPIの上昇に賃金上昇が追い付かず再びマイナスとなっている。これは欧米も同じであり、むしろマイナス幅は欧米の方が大きく、かつ今のところ欧米ではCPIの上昇が止まらない状況にある。一方で実質賃金がプラスであれば経済にとって良いというものでもなく、因みに昨年の日本はCPIがマイナスとなったため実質賃金はプラスだったが、消費は盛り上がらなかった。その理由は次に述べるように明らか。仮に名目賃金が前年と変わらない中で物価が下落する状況下では、消費を我慢し翌年のさらなる価格下落、加えて購入対象の物品の性能向上まで期待して購入を控えることが消費の最適解になる。つまりデフレ下では、実質賃金がプラスでも賃金を現金で保有し、消費は出来るだけ後回しにする傾向が強まる。

一方、名目賃金は上昇するが物価がそれ以上に上昇する場合、物品を出来るだけ早く買わないと、翌年には賃金対比でその価格は上がることになる。さらに個人が保有する1,200兆円の金融資産に関しても同様であり、現金相当分をできるだけ早期にインフレに連動する資産に変更しないと将来の購買力が低下してしまうので、インフレ下では消費あるいは投資は加速し易く、物価はさらに上がることになる。

ところで、日銀の政策目標は年率2%のインフレの持続的達成である。これまでの推移を振り返ってみると、金融緩和策は長期にわたるデフレからの脱却を目指し教科書通り利下げから始まった。1999年に金利がゼロに達すると、流動性のわなを意識し国債買入による大量の流動性供給(2001年)をスタート。その後、買入れ対象をETFに拡大(2013年)、マイナス金利導入(2016年1月)、YCC(2016年9月)と異次元緩和策が続いた。さらにその後、買入対象や数量、変動幅の拡大を繰り返した結果、政策が複雑化し政策毎の目的と効果が分かりづらい状況にある。

今回、CPIが2%超を半年以上継続すると予想される中、日銀がインフレ持続を認めて、一転金融引締めへと移行するかもしれない。その場合、中央銀行には一般的に来た道を戻る性質があることから、まずはYCCから見直し。さらに複雑化した政策を整理する意味合いから、YCC対象の短期化や変動幅の拡大ではなく制度自体の廃止に踏み切る可能性が高い。また、次に控える利上げは流動性のわなからの脱出となるため、欧米同様に大幅な引上げも予想される。ところで、欧米中銀はインフレを一時的としたため、足元で慌てて政策金利を引上げているが、こうしてみると粘着質のデフレマインドが染みついていたのは、実は市民ではなく日銀を含めた各国中銀かもしれない。

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