量子コンピューターと金融

2019年にGoogleは、自社開発した量子コンピューターが従来のスーパーコンピュータで数千年かかる計算を秒単位で行ったとして「量子優位性」を発表した。その後、各国企業は量子コンピューターの開発にしのぎを削るとともに、その利用方法の研究も活発化した。特に金融業界では大手投資銀行が大学との共同研究をスタート、複雑なデリバティブに応用する動きも出た。ここで量子コンピューターがどのように金融デリバティブに応用できるのかを簡単に解説する。

まずは、一般的なデリバティブ商品として知られる、日米株価に連動する仕組債を例にしてみる。この仕組債には日米株価指数のPUT売りが内包されており、どちらかの株価が一定価格以下に下落すると元本毀損のリスクが生じる代わりに高めのクーポンが受け取れる。組成にあたっては、日米株価指数間の相関や早期償還条項を踏まえた理論価格の算定が必要になるが、一般的なオプション計算に使われるブラック・ショールズ式は使えず、モンテカルロシミュレーション法を使う。具体的にはコンピューターに乱数を1万回程度発生させて、様々な価格変動プロセスを作り出し、そこから得られる収益の平均値を計算するわけだが、図1はその概念図である。

仕組み債の保有ポジションが増加、商品数も多様化した場合、モンテカルロシミュレーションを全銘柄に適用すると算定結果が出るまでに半日以上かかることもあり、ポジションヘッジの難易度が上がる。ここで、量子コンピューターを活用すれば、この計算時間を短縮できる。図2は量子コンピューターを用いた場合の概念図。量子コンピューターの特徴である0,1(相場の上下)どちらでもない重ね合わせ状態を利用し、情報処理能力がNビットの場合、2Nの組合せを同時に表現できることになる。

政府はこの4月に量子未来社会ビジョンを策定、研究開発拠点整備や人材育成などの取組みを加速する方針を打ち出した。金融界でも量子コンピューターを有効に活用できる分野として、ポートフォリオの最適化、リスク管理、暗号通信などもあり、今後ますます発展が期待される。

ところで量子力学で著名なファインマン教授は「量子力学を理解できたと思ったら、それは理解できていない証拠だ」と述べている。理系出身の筆者だが、改めて勉強が必要だろう。

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