各国のインフレ対策
世界中で物価上昇が加速する中、国民のインフレに対する不満から各国で政権支持率が低下、英国やイタリアでは首相や政権の交代に繋がるなど各国政府にとりインフレ対策は重要な政治課題となっている。実際、政府・中銀は政策金利を引上げて景気全般の減速に動いたり、補助金制度を使って光熱費の価格上昇を抑え込んだりとインフレへの対処方法は様々だが、ここで改めて各国・地域のインフレ対策を見てみよう。
<米国>FRBの大幅利上げによる景気減速効果に加え歳出・歳入法(インフレ抑制法)でインフレ抑制を図る。インフレ抑制法は、気候変動対策や公的医療保険の延長など4,370億ドルの歳出増と、最低法人税率設定や処方箋薬価の改革などによる7,390億ドルの歳入増から成る。今後10年間で3,000億ドル以上の財政赤字削減効果が見込まれ、加えて技術革新を狙ったものであり、経済理論上の王道と言える。
<ユーロ圏>ECBの利上げによる景気減速効果で欧州全域のインフレ抑制を図る。政府の補助金などによるインフレ対策は各国に委ねるが、ドイツの家庭向け光熱費補助金約37兆円やフランスの同6兆円などで総額40兆円超。今後、イタリアでも新政権によるバラマキ政策が警戒されており、市場では債券、通貨ユーロ、株のトリプル安となっている。
<英国>BOEによる政策金利引上げに加え、トラス新政権はインフレ対策としてのエネルギー料金凍結と大規模減税を含む25.5兆円の経済対策とそのための国債増発を打ち出した。市場はさらなる物価高と規律を無視した財政赤字拡大への警戒感から、ユーロ圏同様トリプル安で反応。BOEは急激な金利上昇に対し、上限無しの長期国債買入れオペを実施し鎮静化を図る。
<日本>消費者庁の調査で物価高の実感が強い項目としてエネルギーと食料品が上位に挙げられたこともあり、政府はガソリン補助金や電気料金および小麦販売価格の上限設定などで物価抑制に動く。物価上昇の原因には内外金利差拡大に伴う円安進行があるものの、日銀は利上げには動かず金融緩和を継続、ちぐはぐな政策を背景に通貨円と株は軟調な展開。政府は24年ぶりとなる円買い介入を決断し、さらなる円安進行の食い止めに動く。
<トルコ>エルドアン大統領は「インフレは高金利に原因がある」とし、忖度する中銀は伝統的な経済理論とは正反対の金利引下げによるインフレ抑制を図る。今のところ消費者物価上昇率は前年比約80%と収まる気配はなく、通貨リラはインフレ加速と金利低下による実質金利急落の影響で最安値を更新中。政府は直接的なリラ買い介入に加え、預金金利のインフレ率に対する不足分を補填する政策を決定、国民の自国通貨売りを抑制しリラ安を食い止める。
以上、各国のインフレ対策を見てみると、インフレ対策と銘打って新たに財政支出を拡大する政策や、さらなる金融緩和による通貨安或いは需要拡大を通じてインフレの加速を招くリスクの高い政策など、伝統的な経済理論とは矛盾する政策がまかり通っている。また補助金政策などには、本来は価格上昇が消費を抑制するとともに新たなイノベーションを誘発するはずが、結果的に技術革新の芽も摘んでいるとの指摘もある。これらの施策は、数年後、コロナ禍やウクライナ戦争という厳しい環境下におけるポピュリズム拡大の弊害との評価になるのか、あるいはエルドアン大統領が唱える新しい経済理論の正しさが証明されるのだろうか。
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