オプションとボラティリティー

最近、仕組債に関する新聞記事をよく目にする。多くの仕組債は投資家のプットオプションの売りが商品性の基礎となるので、改めてオプション取引をおさらいしておこう。 オプション取引を行うときに原資産の変動率(ボラティリティー)が大きなファクターとなることはご存じの通り。ここでプレミアム計算に用いられるのはインプライドボラティリティー(IV)と呼ばれており、一般的にはIVが上昇するとオプションプレミアムも上昇する。図1はATM(市場価格と権利行使価格が等しい状態)のコールとプットを同額購入したポジション(ストラドルの買い)の概念図で、IVが上昇するとプレミアムも上昇しストラドルの価格は上昇するが、プレミアムの回収ポイント(ブレークイーブン)は当然遠のく。

またプレミアムが上昇するため時間価値(セータ)の1日当たりの損失は大きくなる一方、デルタの変化率は低下しデルタヘッジポイントは遠のき、セータ上昇に見合うデルタヘッジ利益が要求される仕組み。

一方、ヒストリカルボラティリティー(HV) は過去の原資産の値動きから計算される。HVは原資産の当日価格P1と前日価格P0より(P1/P0)の自然対数を計算し、分析期間に対する標準偏差を年率で表す。余談だが、自然対数(In)は原資産がゼロ以下とならないことが前提で、近年のマイナス金利政策は金利オプション市場を混乱させた。ところでP1/P0は原資産の前日比で、基本的には1(前日と価格が同じ)が期待されるため、分布図は凡そIn(1)を中心としたものとなる。またトレンドを持った価格推移、例えば毎日原資産価格が必ず5%上昇する場合、ln(1.05)を中心とした標準偏差ゼロの分布となるためHVはゼロになる。一方でIVを用いるオプション式では前述のとおり基本的にln(1)を中心とする分布を想定しているため大きなデルタが発生し(*)、オプションの買い手は増加したデルタ分をせっせとヘッジ売りする。この結果、HVはゼロにもかかわらずストラドル買いのポジションは、ブレークイーブンに到達する過程でプレミアム回収の機会が提供されることになる。

さて、仕組債の場合、金融業者はオプションを顧客から購入することになるが、過去において様々な原因でそのオプション買いポジションによって損失を出した。損失原因は主として算定モデルや評価数値の変更によるものだったと思われるが、上述のようにIVがどのように動こうが、あるいはモデルが多少ずれていても、原資産が十分動けば結果的に損失を回避できた場合もある。たとえばIVが低下するとプレミアム低下分は評価損として計上され、結果的に図1右のIV高い状態から左のIV低いストラドル買いへと移行する。図1のようにデルタヘッジポイントも当然低下し利益を出し易くなるが、相場が十分に動く限りIVが高いままでもプレミアムは回収できる。一方で過去にはマネジメント側の判断で評価損の拡大に伴い全ポジションを一気に解消したケースもある。このケースでは流動性が低い商品で大きなオファービッドスプレッドを支払い、損失が当初想定した額の10倍を超えるケースもあった。金融業者(組成サイド)におけるオプション商品の取扱いの難しさを物語る。   

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