物価と金利の上昇と経済成長
日本の経済成長(GDP)はここ30年間ほど停滞したままで、日経平均株価も1989年の高値を未だ回復できていない。2012年には停滞状態を打破すべくアベノミクスがスタート、日銀はデフレが景気低迷の一因と看破、黒田総裁のもと金融政策によるデフレ克服を目指し異次元緩和を推進した。約10年後の昨年12月には消費者物価(CPI)上昇率は4%に達し、日銀の目標2%を漸く上回るようになった。但し、これは異次元緩和によるものか、或いは前年比10%超まで上昇した国内企業物価が示す原材料価格高騰によるものか、今後の審判を待つところだ。因みに令和臨調は、金融政策では経済構造は変えらず、異次元緩和は過度な財政支出や規制改革の遅れを招いたと評価した。一方で日銀は、目標とするデフレ脱却の達成をもって勝利宣言とともに異次元緩和から抜出すかと思いきや、現状の物価上昇は一時的として金融緩和策を継続。日銀とともにデフレ脱却を目指す政府は、高騰するガソリンや電気料金対策として国債増発による補助金制度を導入、インフレ抑制を最重要課題と位置付ける。さらに物価上昇とGDP×2倍におよぶ国債発行残高増により本来は上昇するはずの金利は、日銀のYCC政策による国債買いもあり動けない。ここで改めて政府、日銀が目指すデフレ脱却とはいかなるものか、考えてみよう。
政府、日銀高官の発言を聞くと単純な物価上昇ではなく、賃金上昇による物価上昇(所謂ディマンドプルインフレ)を新しく目標に設定したかのように思える。新聞等マスコミでも、賃金上昇が物価上昇を上回らなければ、両方ともほぼゼロだった今までと状況は何も変わらないとの論評が目立つ。果たしそうか、例えば物価と賃金がともに前年比ゼロ%から2%に上昇した場合、消費マインドは変わらないかもしれないが、お金の働き方は変化する。今までのゼロ金利のもとでは、国民も企業も大量の現金を抱えても何も気にする必要は無かった。しかし現金が利益を生むとなれば、タンス預金から証券投資や貸出し等に形を変えて社会に溢れ出ることになろう。これは所謂、社会に信用創造(*)と乗数効果をもたらすことになる。ちなみに日本は毎年GDP約550兆円を生み出しているが、この元となる原資は日銀の銀行券発行残高120兆円であり、これが長年の信用創造を伴って日本経済を回してきたと言える。足元では長期にわたるゼロ金利政策によりタンス預金は150兆円と、今や日銀券発行残高を上回る額まで積み上がったが、このタンス預金は信用創造には寄与しない。代わりに政府は企業や個人の現金支出を伴う投資(アニマルスピリット)の不足分を補うため、民間に代わって日銀当預残を活用した財政出動を続けたことになる。但し、日本では米国や中国が先端産業へ成長資金を投入したのとは異なり、支出先が弱者救済に偏った結果、乗数効果の低い低成長企業の増加を後押しすることになり、日本のGDPは低迷が続くこととなった。
通常、物価と金利の上昇は、現金保有が機会損失をもたらすことを意味する。一般的に資産選択の行動は損失回避的バイアスがかかると言われるが、物価上昇率が賃金上昇率を上回ったとしても、少なくとも金利上昇は、個人や企業がため込んだタンス預金やその同等物の社会復帰を促すだろう。今後、市場原理通り物価上昇を反映して金利が上昇すれば、信用創造と乗数効果による日本経済の健全な成長が期待できよう。
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