日米物価動向

世界的な物価上昇を受け、米国では消費者物価指数(CPI)が昨年6月に前年比一時9%を超え、足元1月も低下基調だが同6.4%と高止まり、特にFRBが重視する物価指標のPCEコアデフレーターは4.7%と未だ上昇中である。インフレピークアウトを期待していたFRBも目標の2%から遥か上方で高止まる粘着質なインフレに対する警戒感から、一時減速した利上げペースの再加速とターミナルレート(利上げの最終着地点)の引き上げを示唆した。ここで2月のCPIをエネルギー料金を原油価格の動向から、帰属家賃を住宅価格指数の推移から、その他の物価は賃金上昇率に従うと仮定して試算すると5.5%となり1月から0.9%低下、市場予想の6%も大幅に下回る数字となる。

一方で日本を見ると、1月のCPIは前年比4.3%と上昇中だが、先行性のある2月の東京都区部CPIは3.4%と1月の同4.4%から1%も低下、インフレがピークアウトしたかのようだが実態は異なる。昨年の閣議決定により今年1月から適用開始となった電気・ガス料金の負担軽減策が2月のCPIを0.9%下押ししている。昨年来のガソリン代補助金や全国旅行支援を合わせた政府施策によるCPI抑制効果は合計約2.3%と試算され、CPIの実力値は前年比5.7%と米国に近づく。今後の予想だが、電力会社は政府規制に伴う逆ザヤコストを自社負担しており、4~6月にかけて電気料金の3割の値上げを申請している。またガソリン代補助金は1月から2円づつ削減されているものの6月以降は未定。全国旅行支援は3月が期限だったが延長される見込み。つまり日本のCPIは政府補助金次第で、実態経済とはもはや離れた指標になっている。仮に財政状況を鑑みこれら物価対策補助金等を順次停止することになれば、足元で米PPIを大きく上回る国内企業物価を反映することになりCPIは2月の内閣府消費動向調査「1年後の物価上昇5%以上が66.8%」に近づく。消費者の肌感覚は正確なものだと感心する。

米国では高い賃金上昇がインフレを先導するとして利上げを進めるが、日本の1月実質賃金は前年比▲4.1%と8年8か月ぶりの低水準となりデフレに逆戻りしそうな勢いだ。ただし名目賃金は0.8%と1年ぶりに1%を下回ったもののプラス圏を維持、実質ベースが大幅マイナスとなった原因は厚労省が採用する消費者物価上昇率が5.1%と高いため。

金融政策は基本的な効果として、利上げは企業業績悪化と間接的賃金下落を通したインフレ抑制を狙っており、現状の米国における金融政策はここにある。一方の日本は20年以上にわたるデフレ状態にあり、これは企業のコスト削減に伴う賃金抑制と断続的な社会保障費の増額による可処分所得の減少という直接的賃金抑制効果に起因する。日銀がいくら利下げしても物価が上がらなかったのも頷ける。足元の日銀は新総裁の下、政府の補助金政策継続を想定しているようで年央にもCPIは2%以下になるとの見立てから異次元緩和の継続を示唆するが、政府の産業政策との連携が必要だろう。

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