SVB破綻
今月に入り資産規模が全米16位、IT企業を主な取引先とするシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻し、連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入った。米銀破綻ではリーマン(2008年)に次ぐ過去2番目の規模であり、バイデン大統領は連鎖破綻を食い止めるため両行の預金を全額保護すると緊急発表、両行経営陣の解雇と銀行規制を強化するとした。
もともとSVBは、ベンチャーキャピタル(新興企業向け投資会社)等の預金を他のスタートアップの貸付けに回すことで収益を上げてきた。しかし近年、金融緩和によるカネ余りで預金が増加した一方、足元ではIT企業の資金需要は伸び悩み、米国債や住宅ローン担保証券での運用を急拡大。これらは高格付けのため自己資本比率計算時の分母であるリスクアセットは増加せず、さらに会計上で満期保有有価証券に分類したことで評価損益が収益には影響を与えない。ところがFedが利上げに転じたことで保有債券の含み損が急拡大するとともに、資金調達環境が悪化したスタートアップからの預金引上げも顕著になった。通常の銀行経営ではALMと呼ばれる資産と負債のデュレーション(金利感応度≒期間)を管理する手法をとるが、SVBは即座に引出せる預金に対し、デュレーションが長く金利上昇時に売却すると大きな損失が出る長期債を資産としていた。この結果、足元の急激な預金の引出しに伴う資金繰りのため、多額の債券売却損を計上することになるという初歩的なミスが破綻を招いた。
因みに日本では日銀が発行済み長期国債の約半分を時価評価せず保有、SVBに近い存在と言える。今後円金利の上昇が加速した場合、含み損の拡大が日銀券の信用不安、円安に繋がるとの見方もある。
さて今後の参考として、過去の米国における金融危機の例を見てみよう。
ブラックマンデー…1980年代当時、新理論としてオプション取引が拡大。オプションをプレミアムゼロで複製できるダイナミックデルタヘッジ手法(オプションのデルタ変化分のみを対象資産の売買でカバー)を採用するファンドが流行。相場下落時にはデルタ減少分を売却するが、下落幅が大きいほど大量の売り注文となり、加速度的な売りが暴落を引き起こすことになる。1987年10月にはNYダウが値が付かないままスパイラルに下落、1日で22.6%下落した。その後サーキットブレーカー制度等が導入されるとともにダイナミックヘッジは衰退。
→今回はデリバティブによるレバレッジ効果はなく、損失の拡大リスクは小さい。
LTCMショック…1990年代に入り、ソ連が崩壊し民主化途上だったロシアは通貨ルーブルを米ドルペッグ制に移行。その後1998年にはインフレが年120%を超え、国民は米ドル買いに殺到、通貨と露国債は暴落。ノーベル賞受賞者2名を要したヘッジファンドLTCMは、平均回帰取引 (シグマリスク)の対象を新興国国債としレバレッジを掛けて投資していたが、ロシアデフォルトにより新興国リスクが顕在化、結果的に破綻した。
→今回は投資対象が米国債であり、デフォルトリスクはほぼゼロ。
リーマンショック…2000年代に入り、投資ファンドは返済能力の低い住宅ローンを大量に買付け、回収確度(格付)に応じて分割し債券化、高格付け部分を売却した残りを再び分割し、一部を高格付け債として売却するフローを繰り返した。つまりクレジットのレバレッジ取引を拡大していたが、ローン返済が滞り高格付け債を含めデフォルト連鎖が発生した。
→今回は投資対象が米国債、証券化によるレバレッジ効果もなく、損失の波及リスクは小さい。
以上よりSVBのケースはデリバティブ、レバレッジ、クレジット面で過去の金融ショックに比べ、リスクは限定的と思われる。但し、顧客にIT企業が多くSNSを介して瞬時に情報が伝わったり、今後の成長企業の資金調達能力の低下など、従来とは異なる問題も内包しており注意は必要だ。
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