悪化する米中関係

米国では来年の大統領選を控え二大政党が対峙するなか、対中強硬論だけは超党派の支持を得やすいため人気取りの面もあり断続的に対中政策の強化が繰り出される。一方の中国はこれまでの様な対米強化に特化し対応が目立たなくなり、アフリカ訪問に続きサウジとイランの国交を仲介により回復させ、続いてウクライナ紛争の平和的解決を図るなど、米国に代わる世界の盟主のように振舞い、関係各国もその影響力を認め始めたように見える。ここで過去の紛争を分析することで今後の米中対立の行方を占ってみよう。

<日米貿易摩擦>…米国は成功体験の再現を狙う

米国は1970年代以降に拡大する対日貿易赤字を止めるため、日本に自動車や半導体などの輸出自主規制を要求。一方で米国内の需要を満たすため、日本の技術を他国に移植して生産し米国が輸入するサプライチェーンのグローバル化を推進した。今では半導体生産では中韓がトップとなり、日本は衰退した。米国による現在の対中ハイテク規制はこの成功体験を基にしている。今回も米国の勝利となる可能性はあるが、中国は当時の日米貿易摩擦を研究しており同じ轍は踏まないだろう。加えて、現在の中国の世界経済に占める位置が80年代の日本を大きく上回る点や安全保障で制約を受けない点など日米関係との違いも多く、一筋縄ではいかない。

<第二次大戦>…エネルギーを制する国が勝つ

中国はエネルギー資源に乏しく、石油輸入を遮断されると壊滅的な打撃となる構図は第二次大戦前の日独と同じで、現在は自陣営にロシアを囲い、中東諸国も味方に付け状況は有利になりつつある。一方で西側諸国を見ると、米国、カナダ、英国は石油資源を持ち、日独など他の多くの国はエネルギー供給を詰められると裏切り行為に走り易い。また、製造原価低減のためウイグル族を不当な扱いで労働させているとの批判も、第二次大戦前の日本と状況が重なる。当時の新興国日本は、植民地政策による人種差別問題を「人種的差別撤廃提案」として国際連盟に提起したが、大戦の負け組となった。

<アヘン戦争>…敵対国の国民を麻薬で追い詰める

米国民の45歳未満の最大の死因はオピオイド(麻薬性鎮痛薬)の過剰摂取だが、メキシコ経由で輸入されるものの生産元は中国である。こうなると1840年代のアヘン戦争(英中間)に似てくる。当時英国は対中輸入超過解消のためインドで生産したアヘンの輸出を拡大、人口急増と景気低迷により経済的危機に陥っていた中国の下層階級市民の需要を満たし、巨額の利益を得た。その後、中国政府は中毒者の増加に伴い禁輸措置に踏み切り、対英戦争に発展、結局英国の勝利で終わった。

このように見ると中国は戦略的に主導権の奪取に動いているようだ。もともと世界人口のうち民主国家に住む比率は29%であり、残りは「ほぼ独裁」に分類される国に住んでおり、前述のアフリカ諸国の大半やサウジ、イランも後者に分類され、中国の外交・経済運営手法に共感し易い。つまり中国が世界の国々を自陣営に取込み、民主国家で構成する米国連合と対峙した場合、国連のような民主主義的な議会では、米国連合が多数決で不利となる可能性が予想以上に高い。一方で軍事力では今のところ米国優位だが、戦争となれば両国共に核保有国であり人類は壊滅的被害を受ける。米国はこのような状況を認識した上で、最悪の事態を回避すべく経済面での中国失速を狙う。

米政治学者(G.アリソン)によれば、覇権国家と新興国家との対立が戦争状態にまで発展する現象「ツキデュデスの罠」は、過去500年間の覇権争い16例のうち12例が該当する。今回はどうだろうか。

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