日銀政策会合を控えて
日銀は植田新総裁のもとで初となる4月の政策決定会合において金融政策の現状維持を決定。植田総裁は会見で「インフレは一時的で年後半にかけて低下すると予想しており、拙速な引締めは2%を実現できなくなるリスクの方が大きい」と指摘。「1~1年半を予定する過去の政策検証期間中でも必要に応じて政策変更はある」と述べたが、市場では早期の政策変更の可能性は低いとの見方が広がった。ただし足元では「物価高は国民負担でその上振れリスクは大きく、一時的との見通しが誤っている可能性もゼロではない」、「賃金や物価が上がりにくい慣行に少しずつ変化がみられる」などと発言、スタンスを修正しつつあるようだ。この背景には下がらない消費者物価指数(CPI)と円安の進行が考えられる。
・日本のCPI…昨年来CPIは政府による補助金等の施策により歪められている。具体的には昨年2月にガソリン代補助金で前年比0.4%低下、今年2月に電力・ガス料金補助金で同1%低下、一方で6月には電力会社の値上げ承認により同0.4%の上昇が見込まれる。さらに9月に向けてはガソリン代補助金の段階的廃止で0.4%上昇、9月には電力会社は値下げを検討中だが、年後半には電気・ガス料金補助金の期限到来や各種補助金政策の停止に伴いCPIの上昇が予想される。加えて原油価格は一時より下落したものの、為替は再び円安に振れており、エネルギー価格の再上昇も警戒される状況にある。そこで物価の基調的な動きを確認するため、エネルギーと生鮮食料品を除いたコアコア指数を見ると、4月の数値は前年比4.1%と15ヶ月連続で加速中だ。
・円安進行…米国ではインフレ高止まりを受け利上げ継続予想が台頭、為替(JPY)は半年ぶりに140円台に乗った。財務省、金融庁、日銀は3者会合を開催し「過度な変動には適切に対応する」と昨年10月以来の為替介入を示唆、円安をけん制した。植田新体制下における日銀は異次元緩和を継続するとの見方がドルを押し上げる。つまり円安が加速し、経済への悪影響が顕在化した場合は、日銀による異次元緩和からの出口戦略実行が円安ブレーキの有力手段となりうる。改めてJPYの推移を見ると、2021年以降の世界的なインフレ進行とともに米国が利上げ局面に入り、日米10年金利差拡大とともに円安が進行、その相関係数は0.97と高い。つまり今後日銀が金融政策の修正に踏み切った場合は、逆に円10年金利の上昇と共に円安圧力は和らぐと予想される。
・植田新総裁のスタンス…4月の政策決定会合は安全運転に終始し、当面金融政策を変更しないかのような印象を市場に与えたが、過去の植田氏の発言からは異なる姿が浮かぶ。例えば、①2005年:「経済がある程度プラスの金利に耐えられるような力をつけたと判断できて初めて出口を出る」ことになり、「量の削減に着手してから比較的速やかに、はっきりとプラスの金利に持っていくのが自然。」、②2022年:現行の異次元緩和は「微調整に向かない枠組み」「YCCはイールドカーブの短期と長期の2点を調節する政策で困難度が高く、時に矛盾を抱える可能性がある。」、など。以上から浮かび上がるのは、異次元緩和に対しては批判的ではあるものの緩和を粘り強く続け、出口戦略は量の削減に着手した上で金利引上げに動く、というスタンスだろう。
・金融政策の行方…YCCに関しては、黒田前総裁は昨年12月のYCC上限引上げ時に「これは金融引き締めではない」との認識を示しており、再変更しても引締めではないとの立場を日銀は踏襲できる。加えて、現在10年金利はYCC上限の0.5%以下に止まっており、仮にYCCを撤廃しても市場へのインパクトは限定的と予想され、6月或いは7月の会合で修正に動くかもしれない。一方、ゼロ金利の解除は量的緩和の終了後ということであり、しばらく先と予想される。
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