米商業用不動産
世界的なインフレとそれに伴う金利上昇にもかかわらず、日米欧の株式市場は堅調だ。このような中、今後の反落トリガーとして中国と米国の不動産市況の悪化が警戒されている。一方で中国政府は利下げによる不動産市場のサポートに動いているので、ここでは米国の不動産、特にリスクが高いと見られる商業用不動産を取巻く状況をチェックしてみる。
まず不動産の資産運用商品としての評価を見てみる。米国において不動産のトータルリターンとCPIは正の相関関係(相関係数0.45)にあり、変動幅はCPIより大きいものの不動産はインフレヘッジとして有効な資産に見える。一方でCPIと不動産リターンの長期推移(図1)を見ると、CPIは昨年9月に前年比9.1%とピークを付けた以降は低下基調にあるが、不動産のリターン下落幅はより大きく、足元ではリーマンショック以来のマイナスとなった。この背景には、不動産市場はリーマンショックの引き金となったサブプライムローン等の問題を内包するとの見方があり、特に注視されるのが商業用不動産だ。商業用不動産とはオフィス、倉庫、商業用モールなどの商業施設を指し、全不動産に占める割合は、オフィス、商業施設がそれぞれ15%を占める。その中でさらに警戒されているのがオフィスであり、急激な金利上昇に加え、在宅勤務の広がりと人員削減などによる空室率上昇、SVB破綻に伴う主な貸し手である中小・地銀の資金提供力の低下といったネガティブ材料が目白押しである。
次に商業用不動産市況の金融市場への影響をチェックする。民間銀行の商業用不動産融資は融資総額の約24%、そのうち67%が中小銀行(資産100億ドル以下)からの貸出ではあるが、そもそも中小銀行の資産規模は全米銀の約14.5%と小さい。つまり、商業用不動産の価格下落は中小銀行には痛手だが、そのままリーマンショック時のような多重レバレッジによる不良資産の加速度的拡大を引き起こし、全米金融機関全体の信用不安にまで広がる可能性は低いと思われる。
最後に金融市場環境の商業用不動産を含む不動産価格全般への影響を見てみる。中央銀行(FRB)の金融政策転換の効果は、通常タイムラグを持って不動産価格に表れ、その期間は契約更新のタイミングなどの影響もあり10~18ヶ月後と言われる。図2はダウREIT指数と5年国債金利(上下反転)を18ヶ月先に後倒ししたものの推移。この図を見ると、最近は5年金利とREIT指数の動きは凡そ同調している。つまり商業用不動産を含む米国不動産は、当面は下落リスクを抱えるものの、5年金利がこれ以上上昇しなければ、年明け以降には購入タイミングの到来、市況回復となるかもしれない。
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