マイナ保険証の意義
2021年10月に導入された「マイナ保険証」は、健康保険証の代わりにマイナンバー(マイナ)カードの個人認証機能を活用することで、本人確認を含む健保組合による医療関連事務のデジタル化を担う。例えばマイナ保険証を使うことで、過去に受けた診療内容や薬の処方などの受診歴を確認できる。加えて同じ薬を出す「重複投薬」を防ぐほか、薬の転売やなりすましによる医療保険料を払わない受診などの犯罪行為の抑止も期待できる。また病院では患者の情報を『記憶』ではなく『記録』に基づいて把握でき、さらにマイナカードの専用サイト「マイナポータル」では、患者は自分の検診結果を確認できるため、喫茶店状態と揶揄された高齢者の来院頻度の低下にも役立つと見込まれる。
当初は医療機関の負担増を懸念した医師会などの反対を背景に、マイナ保険証を利用した方が従来の健康保険証で受診した患者よりも医療費が高くなるよう設定されるなどネガティブな要因もあり、同保険証の利用は伸び悩んだ。そこで政府は22年4月に普及を促すため、マイナ保険証対応システムを導入した医療機関への補助金支給とともに、患者にはマイナ保険証を使った方が医療費が安くなるよう診療報酬を改定した。加えて促進策として、カード取得者にショッピング・ポイントなど最大2万円分(作成時に5千円+健康保険証等紐付け時に1.5万円)を付与する補助金制度「マイナポイント」を設定した。その結果、マイナカードの普及率は23年5月末時点で77%まで高まり、そのうち約69%が健康保険証としても登録した。
その後、保険証登録時の入力ミスが連続して発生、国民のマイナ保険証への信頼が低下し返納が相次ぐ事態に発展、足元で政府は国民への説明・謝罪に追われる。ここで念のため従来の健康保険証制度の実態を見てみると、本人確認ができないなどの理由で年間約500万件の手続きミスやなりすまし行為が発生するなど、もともと旧態依然としたアナログ制度だった。つまり今回のマイナカードと保険証の紐付け作業で発生した他人情報の誤登録ミスなど、現在判明済みの保険証登録ミス計8千件は、従来の健康保険制度で日常的に起こっていたミスの一部がデジタル化によって早期発見されたに過ぎないとも言える。
足元で政府は、来年秋に現行の健康保険証を廃止してマイナ保険証に一体化する政府方針に変更はないと強調、一方でカード不所持者に交付する資格確認書の有効期限を当初の1年から5年に延長するとした。これにより高齢者の来院頻度の引下げやなりすましなどの犯罪行為を防ぐという当初の目的実現が遠のくと共に、結果的に保険財政の悪化も継続することになる。因みに日本は国民が病院に行く割合が人口対比で欧米の2倍以上であり、今後は後期高齢者の増加により財政負担もさらに増加することが見込まれる。
確かに医療機関を受診することは大切だが、通院頻度を減らすことが必ずしも死亡率を高めないことは事実として確認されている。因みに財政破綻した夕張市ではベッド数が171床あった市立病院が19床の診療所に縮小され、医療サービスが“崩壊”とも言えそうな事態となったが、その後の調査ではがん、心臓病、肺炎で亡くなる人の数は減少し、1人当たりの年間医療費も80万円から70万円に減額となったと報告されている。
世界的に見たとき日本の市民生活におけるデジタル化の遅れはよく指摘されるが、まずは当初の医療面の目的を果たすため、加えて財政負担の軽減を含む課題に対処するために、マイナ保険証への完全な移行を早急に進めるべきだろう。
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