円安いつまで

9月の日米中銀ウイークでは、FOMCが年内にあと1回の利上げを示唆した一方、日銀の植田総裁は金融政策の修正時期について「到底決め打ちできない」と発言し、早期の正常化観測をけん制した。この結果、債券市場では米国10年債金利が一時4.6%台と約16年ぶりの高水準を付け、円金利はほぼ変わらず。為替市場では高金利のドルに資金が流れ込み、ドル円(JPY)は昨年10月以来の149.5円超の円安となった。当時は政府による9月、10月計3回9.2兆円の為替介入により151円台で跳ね返ったが、今回も財務省からの口先介入に加え、イエレン財務長官から為替介入に一定の理解を示す発言を引出す等、既に介入準備は整ったと思われる。足元では当局に挑戦するかのように円安は進むが、今後のJPYの展開を占ってみたい。

<JPYは日米金利差との相関が高い>

2021年以降の世界的なインフレ進行とともに米国が利上げ局面に入り、日米10年国債金利差拡大とともに円安が進行、その相関係数は0.97と高い。従って今後Fed或いは日銀がこれまでの金融政策を修正した場合、円安圧力は和らぐと予想される。改めて日米の金融政策を見てみる。

 米国の金融政策…足元のインフレ要因のうち粘着性の高い賃金は未だ高止まるが、一方で労働需給には緩和の兆しも見える。仮に平均時給の前年比上昇率が8月の4.3%から年末までに3%へと下落すると、弊社試算では総合CPIは12月に3%、来年5月にはFedの目標値2%を下回る水準への低下が見込まれる。この流れとなれば、年内利上げは見送りとなり、来年半ばにはFOMCでの金利予想(ドットチャート)の通り、利下げ局面入りが予想される。

 日本の金融政策…日銀はインフレ率の基調は2%以下との認識だが、生鮮食品や補助金政策の影響が大きいエネルギーを除くコアコアCPIは2か月連続で前年比4.3%と高い。仮に今年末で補助金停止となれば、来年2月以降の総合CPIは約2%上振れて前年比5%を超える可能性がある。この場合、米国を大きく上回る物価上昇が実現することとなり、日銀は異次元緩和策の変更に動く可能性が高まる。

<今後一旦円安は終了か>

マーケットには「中銀には逆らうな」との格言があるが、特に日銀の反抗勢力はほぼ全敗した歴史があり、今回も為替介入(指示は財務省)となれば一旦円安終了と見た方が良さそうだ。加えて年明け以降に日米金利差縮小となれば、相関係数が示す通り円高圧力が高まる。さらに輸入物価抑制のための補助金政策が停止となれば、輸入量減少から需給面においても円売り圧力が弱まり、来年は円高となり易い。

<中期展望>

ところで世界的にインフレが進行する中、金融緩和と財政支出拡大という通常の経済学と異なる政策を継続する大国に、日本とトルコがある。このうちトルコは、今年から金融政策の正統派経済学への回帰に舵を切り、急速な利上げに動く。一方の日本はここまで政策変更の動きは見えず、インフレ進行に伴って金利が上昇するまでは借金を重ねて財政支出拡大してもよいとするMMT(現代貨幣理論)からは、その成功例と評価される。仮にMMTに基づけば、今後インフレ進行となった段階で増税と緊縮財政への転換が必要となるが、日本政府は財政支出拡大によりインフレを抑え込む戦略を採用する。果たしてMMTを超える理論を確立できるだろうか。仮に正統派経済学が正しければ、将来的な財政破綻リスクの高まりから、中期的には通貨安とインフレが加速する新興国入りのリスクが高まることになる。 

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