目指せ資産運用立国
岸田首相は、資産運用立国を目指す姿勢を明確にした。足元で2,100兆円を超える個人金融資産のうち現預金が50%以上を占め、株式・債券への投資割合は15%と米国の現状53%を大きく下回る。このような日本において個人金融資産の株式等へのシフトを狙い、まずは新しい少額非課税制度(新NISA)が来年スタートする。新NISAでは口座開設期間の恒久化や非課税保有期間の無期限化など、制度面の見直しにより魅力向上を目指す。さらに政府は「資産運用立国分科会」を設立、年内にも資産運用業者の運用力向上やそれを支える環境整備に関する政策プランを策定する。
分科会では、日本の運用会社が親会社と資本と人事が一体化している問題を指摘、グループ内でのいわゆる順送り人事ではなく資産運用のノウハウを持った経営人材を育成、加えて資産運用事業のグループ内での位置づけを強化すべきとした。また、海外からの優秀な運用会社の招へいを狙い、英語で行政対応が完結できるようビジネスや生活環境を整備した「資産運用特区」創設を検討する。
ここで改めて、一連の資産運用立国を目指す金融制度改革による効果を確認してみよう。
・新NISA…現行NISAは5年間500万円という小額投資による短期決戦を想定したものだったため、2,100兆円の個人金融資産に対しあまりにも小粒かつ長期投資に不向きだった。新NISAは枠拡大と恒久化により狙い通りの効果が期待できそうだ。
・運用会社の運営体制…分科会指摘のように、長年人事畑だった役員が運用子会社の社長へ天下りするような人事もあっただろう。マネジメントが資産運用の素人の場合、結果的にファンドマネージャーの主体性が確保されず、運用ノウハウの高度化が遅れるリスクがある。今後分科会の提言により改善されていくことが期待できる。
・資産運用特区…政府には「海外市場での運用を外資系運用会社に依存しすぎ」との批判がある。この依存関係の背景には「外資系運用会社=優秀」との評価があるが、そもそも運用会社のパフォーマンスは投資対象のリターンに依存するため、外国株を主な投資対象とする外資系運用会社には有利となる。例えば米国株は33年間の平均リターンが複利で年平均7%に達する一方、国内運用会社の主な投資対象である日本株は33年間横ばいに止まる。一方でアクティブファンドのリターンは一般的にインデックスに劣後する場合が多く、米国では運用期間10年以上でインデックスを上回る運用成績のアクティブファンドは3割未満だが、日本では7割超に達する。つまり外資系運用会社の運用成績が良く見えるのは、運用手腕というよりは投資対象の問題であり、特区を設ける必要があるかは疑問だ。
ところで33年前の米国の個人金融資産に占める株式の割合は15%と今の日本と変わらなかったが、その後33年間の米国株の上昇率は日本株0%に対し1,200%に達する。つまり米国株上昇により、資産配分の見直しを伴わなくても、株価上昇だけで株式割合が50%を超えたと見ることもできる。一方でこの間に企業業績も改善したため、PERは上昇していない。今後、日本で株式への資金移動が大量に起こり、仮に企業業績に変化ないまま株価が3倍まで上昇すれば、PERは50倍に達し割高と見做されバブルと指摘されよう。当たり前のことだが、運用立国を目指すなら、運用体制の高度化とともに日本経済の成長が求められる。因みに政府は、近年進行する資産運用業の構造改革により日本の資産運用セクターの運用資金は800兆円と3年間で1.5倍に急増と発表した。但し、日経平均はこの間に約2倍となっており、運用資金の急増は構造改革の成果ではなく株価上昇が主因のように見える。米国が実現した個人金融資産に占める株式等の割合増加と同じ現象が、日本でも起きつつあるのかもしれない。
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