イスラエル・パレスチナ問題

11/7にパレスチナ自治区・ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが、突然イスラエル領内にロケット弾を発射、戦闘員が領内に侵入し市民を殺害するとともに外国人を含む100人以上を人質としてガザ地区へ連行した。イスラエル側はこの戦闘行為をハマスによるテロ行為と位置づけ、報復としてハマスのせん滅を宣言、ガザ地区の空爆に加え地上部隊をガザ中心部へと侵攻させた。これまでの犠牲者は双方で1万人を超え、今後さらに事態が悪化することが懸念される。ここで改めて歴史をもとに衝突の背景を整理してみる。

歴史…この地は旧約聖書では約束の地として神がユダヤ人に与えたとされる。ユダヤ人は紀元前10世紀頃から王国を築いていたが、紀元1世紀にこの地をローマ帝国に征服され、そのほとんどは世界中に離散した。今も残る嘆きの壁は破壊された神殿の一部。一方、キリストが十字架にかけられたのもエルサレム(ゴルゴダの丘)であり、キリスト教の聖地として2世紀以降キリスト教巡礼者が増加した。その後7世紀にはイスラム王朝の支配下となり、ムハンマドが夜の天国の旅に出た地としてイスラム教の巡礼地とされ、結果3つの宗教の聖地となった。16世紀以降はアラブ人によるオスマン帝国がこの地を支配したが、世界中に離散したユダヤ人は約束の地としてこの地域に集まり、アラブ人と共に暮らしていた。1914年に勃発した第1次大戦では、英国は敵対する独に協力するオスマン帝国の崩壊を狙いアラブ人に接近、見返りとしてアラブ国家建設を密約した。一方で英国はオスマン帝国領土を戦後にフランスと分割支配する協定を締結。さらに戦費調達のためロスチャイルド家と戦後にユダヤ人国家建設を約束した。これが有名な3枚舌外交と呼ばれるもので、英国は結局フランスとの協定を優先した。その後第2次大戦ではナチス迫害を逃れたユダヤ人流入が急増、国際連盟は1947年にパレスチナ分割によるユダヤ人への割当て案を可決、翌1948年にイスラエルが建国された。アラブ諸国は国連決議に反発、その後イスラエルへの侵攻を繰り返すも、イスラエルは西側諸国の支援を受け軍事大国化した。  

ハマスによる侵攻の背景…ハマスとはパレスチナ・ガザ地区を実効支配する武装組織。イスラエルの破壊とイスラム国家の樹立を目標に掲る。対イスラエルで一枚岩だったアラブ諸国も、近年経済や貿易を重視するようになり、UAEやバーレーン、エジプトなどは2020年にイスラエルと国交を正常化。さらにアラブのリーダー的存在であるサウジアラビアも国交正常化を目指す事態となり、ハマスは存在感の低下から軍事侵攻へと踏み切ったと思われる。ガザ地区は種子島ほどの広さに200万人が塀に囲まれて暮らす。物資や兵器の調達は困難を極め、包囲するイスラエルとの戦闘は無謀とも言える。したがってこの戦闘の最終目的は、アラブ諸国が再びイスラエルとの対決姿勢を強めることと見られる。特に長年にわたり米国と敵対する大国イランをこの紛争に巻き込めれば、ハマスの目的は達成となる。実際イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラやイエメンの親イラン武装組織フーシは、母国とイランをハマスとの共闘へと駆り立てる。

今後…バイデン政権はイスラエル支援を表明、人道支援の観点から一時停戦を求めた国連安保理決議で拒否権を行使した。その後イスラエルに対し停戦を要請したが、ネタニヤフ政権は短時間の局所的な休止のみ受入れ停戦は拒否、米国の影響力は低下する。一方でイスラム諸国首脳による緊急会議がサウジアラビアで行われ、イスラエルの非難と併せ、即時停戦と継続した人道支援の実現を訴えた。今のところ落としどころは見えないが、今後、米国を含む西側諸国とイランを含むイスラム諸国の合意に基づく人道支援を軸とした長期的な停戦を実現、ウクライナ紛争を含め世界的に分断が進む中、これを貴重な契機として世界平和の基盤確立に繋がることを期待したい。 

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