結婚対策こそが少子化対策

政府の試算によると、日本の人口は2100年には6,300万人に半減し、高齢化率(65歳以上)は40%に上昇するらしい。政府は少子化対策により人口8,000万人社会を目指すとしており、実現した場合2050~2100年のGDP成長率は年率0.9%程度を維持でき、戦略をとらない場合と比べると一人当たりGDPは2.5倍になるという。しかしながら、政府による近年の少子化対策は成果を上げておらず、民間有識者で作る「人口戦略会議」は、今とるべき具体策として①人口減少のスピードを緩和・安定化させる「定常化戦略」と②現在より小さい経済規模でも成長力のある社会をつくる「強靭化戦略」を示した。

⓵定常化戦略…現状の少子化対策の効果は限定的だ。例えば母子保健事業の拡充策で出生率が有意に高まったのは夫の年収が400万円以上のケースに有意だった。また出生育児向け一時金策は低所得層の出生率向上に寄与したものの、一時金の一部は他の財やサービスの消費に向けられた。尚、現状の少子化対策は上述の通り子育て支援に重点を置くが、その前提となる結婚に向けた支援が必要との指摘もある。国立社会保障・人口問題研究所の統計では、政府による1995年から5年間にわたる第1回の少子化対策実施後にあたる2000年と足元の2021年を比べると、1回の婚姻当たりの第一子出生比率は約70%で横ばい、第二子、第三子は逆に増えている。にもかかわらず出生数自体は約30%減少した。因みに婚姻数と出生数を同期間で比較すると、女性の初婚率が▲39%に対し第一子出生率も▲39%と同率で減少している。つまり初回婚姻件数の減少が原因で出生数も減少している。そこで女性の初婚率低下の原因を探ると、1位は「経済問題」、2位は「行動や生き方が制限されるから」。したがって解決策には若者の可処分所得の引上げが必要となるが、今までの対策は育児・出生補助など既婚世帯への補助策が中心。更にこれらの財源を税金や社会保険料の引上げに頼ることで、却って若者の所得を減らし、結果として少子化を促していたとも言える。新たな定常化戦略は、意欲ある男女が結婚・出産し易いように若年層の所得向上や非正規雇用の正規化といった雇用改善を重要項目としている点で効果が期待できそうだ。

②強靭化戦略…この対策は生産性の低い企業や産業或いは地域の構造改革と教育の質の向上により、若年層の可処分所得引上げを目指す戦略。例えば、働き手の減少は人口全体の減少より加速するため、労働生産性の向上に向けAIの活用を推進する。また単純労働では生産性は低下する一方なため、高い技能を持つ外国人人材の受入れ、或るいは労働生産性の高い外国企業の転入などの政策は有効だろう。また教育環境からみると、学校外教育(塾・予備校など)にかかる負担の重い自治体で出生率が低い。これは所得格差が学力格差へと繋がり、それが再び所得格差と少子化に連鎖する悪循環が生じているように見える。つまり学費の無償化も大事だが、学校外教育支出の補助制度も必要と思われる。

③第三の施策…さて上記対策に加え、初婚数の向上に必要なのは出会いの場の多様化だろう。図1は結婚に至るきっかけの比較だが、足元では従来からの職場や仕事、友人・兄弟の紹介が減少、代わってインターネット(非対面)が躍進している。但し、非対面ではお互いの多面的な情報(データ化が難しい要素)の入手は困難であり、やはり対面型の活性化が必要だろう。今後の施策として、コロナ感染リスクの低下を踏まえ、90年代に一世を風靡したディスコ(例:ジュリアナ東京)等出会いの場の復活支援という手もあろう。 

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