マイナス金利解除

内田日銀副総裁は2月月初の講演で異次元緩和からの出口戦略に言及。マイナス金利解除時の引上げ幅については導入前の水準を前提に「0.1%の利上げ」になると指摘。イールドカーブコントロール(YCC)は「あくまで量的緩和の一類型」であり撤廃後も国債買入れはやめることはないと説明。一方でETFなどリスク資産の買入れは、緩和修正時にやめるのが自然とした。その後2月末に高田審議委員は「物価目標の実現が見通せる状況になってきたとの認識で、3月その次も対応していきたい」と発言、3月にも政策変更との思惑が広がった。その後、植田日銀総裁はG20で「物価目標の達成は未だ見通せる状況に至っていない」と発言、マイナス金利解除時期の予想を4月まで押し戻した。さらに3月月初に中川審議委員は物価目標の実現に向けて「着実に歩を進めている」と指摘、改めて3月の変更が射程に入った。

足元の経済状況を見ると、昨年第4QのGDP成長率速報値は年率▲0.4.%と第3Qの▲3.3%に続き2期連続のマイナス成長となりテクニカルリセッション入り。消費者物価(CPI)は1月の総合指数が前年比2.2%と3か月連続の減速傾向にあり、一部ではすでに利上げは難しくなりつつあるとの見方もあった。但し設備投資が前年比16.4%と17年ぶりの高水準となったことで、第4QのGDP改定値は年率+0.4%へとプラス転換。加えて企業業績を見ると、昨年4-12月期の上場企業全業種36種のうち6割の業種が増益・黒字、売上高純利益率も前年比6.4%と堅調、日経平均株価は過去最高値を更新中。また物価推移も、足元の減速基調は各種補助金制度の抑制効果によるところが大きく、その影響が薄れた2月の東京都区部CPIは前年比で再加速、今後は補助金停止に伴うCPIのさらなる上昇も予想される。また日銀が物価上昇要因として挙げるコストプッシュインフレ(第1の力)は、その中心であるエネルギー価格上昇はほぼ世界共通の事象であり、日本と同様エネルギーの多くを輸入に頼る中国はデフレに陥いるなど、物価への影響は限定的。つまり日本では日銀が想定する以上に賃金上昇によるデマンドプル(第2の力)の効力と、株や住居など資産価格上昇による影響が物価上昇に寄与していると思われる。実質賃金は前年比▲0.6%と22か月連続でマイナスだが、現金給与総額は前年比2.0%と25か月連続でプラスを維持、マイナスの実質賃金(=名目賃金上昇率-インフレ率)は2022年当時の欧米同様の現象であり、今後はプラス転換が見込まれる。

以上から日銀は4月までにマイナス金利の解除に動くと予想する。解除幅は内田副総裁の発言通り0.1%となろうが、問題は現状日銀当座預金に付与される3層構造の何れの金利を0.1%引上げるのか。現状+0.1%が付利される基礎残高を引上げると+0.2%と数字面のインパクトが大きい。一方▲0.1%が付利される政策金利残高は残高自体が少ないため、利上げによる経済への波及効果も小さい。そこで0%が付利されるマクロ加算残高と政策金利残高の2つを0.1%引上げることで、金利構造を2層へシンプル化、併せて無担保コール金利のプラス化を目指すと見込む。一方、長期金利は現時点での国債のスワップスプレッドは10年が▲15bpに対し20年は+10bp。つまりYCCの影響を最も受ける10年国債の金利が相対的に低く押さえられており、YCC撤廃に伴い10年国債の金利は上昇しよう。ちなみに米国10年国債のスワップスプレッドはQT(量的引き締め)の影響もあり+30bpである。ところで世間には金利上昇による日銀の財務悪化を懸念する向きもあるが、日銀は国債保有額約600兆円に対しすでにETFの含み益が34兆円ほどあり杞憂と言える。また国の借金をGDP対比2.5倍まで増やした政府に関しても、来年度予算で国債の利払い費の想定金利を1.9%まで引上げており、長期金利が2%を大きく超えない限りは心配は無用だろう。   

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