欧州で極右政党が台頭

・欧州議会選…6月9日に実施されたEUの立法機関にあたる欧州議会の選挙では、極右や右派などEUに懐疑的な勢力が伸長した。各加盟国でも独ではナチスのスローガンを使う極右「独のための選択肢(AfD)」が2位に躍進、仏でもルペン氏率いる極右の「国民連合(RN))」の得票率が31.4%とマクロン大統領が率いる与党連合の14.6%を大きく引き離し1位となった。一方、欧州議会全体(720議席)ではフォンデアライヱン議長率いる「欧州人民党(EPP)」は9議席を増やし、第2会派の「欧州社会進歩同盟(S&D)」と第3会派「欧州刷新(RE)」を合わせた親EUの3会派は過半数の安定勢力を維持する。これまでの欧州議会選は地味なイベントだったが、今回極右が議会内で発言力を高めることとなり、一転注目を集める結果となった。

・仏下院選…仏では欧州議会選での敗北を受け、マクロン大統領が下院解散、総選挙(6月30日)を決断した。これまで年金改革など財政健全化を進めたマクロン大統領に対し、ルペン氏と28歳と若いバルデラRN党首は減税を公約に掲げる一方でEU離脱などの極端な政策を封印、物価高や移民問題への不満を持つ層を中心に支持を伸ばす。下院選(577議席)はすべて小選挙区制であり、1回目投票で50%以上得票できなければ決選投票となる仕組み、極右首相誕生を恐れる有権者が大統領支持に回るとの読みから下院解散に踏み切ったと思われる。但し議会解散が行われた1997年の例では、シラク大統領による同様の思惑は外れて野党社会党が勝利し、ジョスパン首相が誕生。大統領と首相の属する政党が異なる「コアビタシオン(同棲)」となり議会運営の難易度は高まった。今回の選挙では、与党中道連合は現在の250議席から半減の可能性もささやかれる。極右政党が過半数を奪取すれば首相輩出となり、大統領の任期2027年までの3年間、ねじれ政権となる。財政改革だけでなく気候変動対策や難民対応、加えてウクライナ支援などEU全体にも影響する政策スタンスの変化が生じるかもしれない。

・極右政党誕生…極右政権が誕生した際の市場反応として、2022年9月に伊で極右メローニ政権が誕生した時の市場動向を参考として図1に示した。メローニ氏は右翼政党「イタリアの同胞」の党首であり、脱EUやバラマキ政策が警戒された。しかし当選後は予想以上に穏健な政策を進め、結果として市場の混乱は一時的なものに留まり、現在まで比較的堅調な流れが続く。仮に仏下院選で国民連合が第1党となり株式や債券が売られても、一時的な動きかもしれない。一方で独仏を含む欧州だけでなく、11月に大統領選を控える米国などにおいても、国民はウクライナ支援や環境保護に疲れ自国優先という内向きな指向が目立つ。これが権威主義国家を含め世界の趨勢となれば、極めて憂慮すべき事態である。

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