政府の役割
資本主義社会における政府の役割は、簡潔に言えば税金としてお金を徴収し、そのお金で社会資本を整備、公共サービスなどを提供することである。その際、政府がどのような将来像を描き、いかなる分野にお金を供給、或いは規制するかにより、その国の経済の方向性が決定づけられる。
<過去の政策>…日本政府は第2次大戦終結後、戦後復興が一段落した時点で所得倍増計画を策定、狙い通り国民の所得は増加し高度成長期に突入、アジアの奇跡と絶賛された。その後1985年のプラザ合意による円高不況時には低金利政策を採用、結果的にバブル期を迎え地価が高騰したため、利上げと貸出総量規制により政府の目論見通り不動産バブルは崩壊した。また1980年代以降の日米貿易摩擦では、米政府からの圧力を受け、外国製の鉄鋼や半導体などの購入数値目標を設定。日本企業は韓国等に製造技術を供与するとともに品質向上も指導、それが現在の韓国、中国の鉄鋼、半導体産業繁栄の基礎となり国内企業は衰退した。また国内の保険会社に対しては、第3保険分野の取り扱いを禁止、がん保険などは外資系が独占することとなった。足元では、ゼロゼロ融資に代表される中小企業支援策により低生産性企業の多くが存続、ゾンビ企業増殖により一般企業も低価格・低賃金競争へと巻き込まれ、デフレを演出した。こう見ると、失われた30年は政府の考えに沿った、想定通りの結果だったかもしれない。
<出る杭を打つ習性>…日本ではGAFAMのように市場を席巻する圧倒的技術力を持つ新興企業が生まれにくいとされるが、これも政府による既存企業温存バイアスと出る杭を打つという政策的習性の影響が強いように見える。かつての日本では、インターネットビジネスや音楽配信、アクティビスト型ファンドなどで若い起業家が台頭、時代の寵児としてもてはやされた。一方で政府はそれらを出る杭と見做し規制と法律を駆使して駆逐、既存産業を守る政策を摂った。その後、警戒感から若者の起業熱は低下しイノベーションの意欲がそがれた一方、政府の思惑通り既存企業と従業員は守られた。因みに米中では、政府はスタートアップ企業の成長を妨げるよりはバックアップする傾向が強く、数多くの新興企業の躍進に役立っていると思われる。但し、大きくなり過ぎた場合は、叩かれるようではあるが。
<最近の政策>…最近は日本経済にプラスとなる政策も見られる。足元で話題となっている、個人の金融資産を貯蓄から投資へと振り向ける新NISA制度や、熊本県や北海道への半導体工場建設への補助金などは、経済成長に資すると期待できる。また様々な政府支援を受けて、大学発ベンチャー企業が昨年度に4,288社と5年前から9割増加するなど変化の兆しも見られる。例えば半導体に関しては、2000年代以降に目立ち始めた中国における補助金政策や他国企業の国内進出時に最先端技術の移転・開示を迫る政策などの成功例を見習い、先進各国政府も中国型経済運営の一部を流用し始めた。特に米国や韓国では成長企業への補助金政策が盛んで、TSMCによるアリゾナ工場建設など枚挙にいとまがない。尚、政府の今回の方針転換も、従来は政府援助による割安製品の販売はダンピングに当たりWTOルールに反するとしていたため、遅きに失する可能性はある。また選挙対策とも揶揄される、ガソリンやガス・電力補助金の延長・復活は、結果的に渋滞激化や炭酸ガス排出量の増加、貿易赤字拡大および新エネルギーへの転換を遅れさせる政策とされ、相変わらずの迷走ぶりではある。政府は、ここに来て円安への警戒を強める一方で、インフレ対策と称した各種補助金などのバラマキ政策を次々と繰り出す。これらの施策も財政赤字と貿易赤字拡大促進策と言え、過去の新興国においては自国通貨安へと繋がったことから、一部市場参加者は更なる円安を予想する。
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