もしトラと円安

日米金利差拡大に伴うキャリートレードの隆盛や新NISAによる米国を中心とした海外株式への投資急増に伴う円売り、加えてエネルギー価格上昇やデジタルコンテンツ代金支払い増加に伴う貿易赤字の拡大などを背景として、2021年以降に円安が急激に進行、7月初旬には1米ドル161.95円と37年半ぶりの円安をつけた。但し、足元では11月の米国大統領選に向け、低金利とドル安を志向するトランプ氏が支持率を伸ばし、市場では「もしトラ(もしもトランプ氏が当選したら)」トレードが活発化。トランプ氏が「円は安すぎる」と発言したため、円は一時的に155円台をつけた。円安の現状を分析し、今後の展開を占ってみる。

「もしトラ」トレード…2016年11月の米大統領選トランプ氏勝利後に、株価は上昇、物価と金利も上昇し為替はドル高となった。今回も同様の動きを予想する向きもあるが、当時のドル高に関しては、株高、物価高、金利高の結果と見ることもできる。今のところ物価と金利は低下基調にあり、前回とはやや異なる。トランプ氏が発表した政権構想では、「基本的に低金利、低課税を目指し、為替に関しては人民元と日本円が対米ドルで安すぎる」とした。更に為替介入抑制や低金利誘導などの政策を駆使して、ドル高是正を目指すことも予想される。

日米金利差…キャリートレードの源泉であり、図1に示す通り過去のドル円動向は日米金利差との相関が高い。今後は、米国利下げに対し日本の利上げが予想され、円売り巻き戻しの可能性がある。

日本政府の意向…円安は輸入物価上昇などを通して実質賃金の低下につながるうえ、海外旅行代金の高騰などから国民の不満を高める。更に日本における物品価格や人件費などの割安さが国力低下を表すとの意見もある。河野デジタル相はインタビューで、円安是正策として日銀の利上げを要求したようだ。

為替介入…図1に示すように、過去において介入はドル円のトレンド転換に成功してきた。今回も7月11,12日に合計5兆円程度の介入を行った可能性がある。規模感では新NISAに伴うドル買いが毎月1兆円程度に対し、介入規模は1回約5兆円と大きく、一方で介入原資となる外貨準備は約200兆円と潤沢である。

1月の大統領選までまだ予断を許さないが、トランプ氏はパウエルFRB議長を任期満了(2026年5月)まで解任しないとしており、現状の日米金融政策からは金利差縮小が予想される。加えてトランプ氏再選となれば、日米両政府が円安ドル高是正を目指すことになること、更に過去の為替介入実績を考慮すれば、円安の動きは今後是正されていく可能性が高い。その場合、チャート的には一旦150円。その後円高が続くようであれば、2023年に一時的につけた130円がターゲットとなろう。

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