日米金融政策

7月30,31日に日米の中銀による金融政策会合が開かれたが、その公表内容を整理してみる。

日本:量的引締め(QT)と同時に利上げを決定、利上げ継続を示唆するなどタカ派

・量的引締め(QT)…日銀の国債保有残高は現在600兆円弱で、発行総残高の半分を占める。日銀は買入れ額を減らすことで保有残高を削減するQTを決定。資産サイドの大量の保有国債に対し負債サイドの日銀当座預金への付利負担が生じるため、政策金利が上昇すると将来的に欧米中銀のように逆ザヤとなる可能性がある。現状の買入れペースは5.7兆円/月だが、これを毎四半期4千億円ずつ減額し26年1-3月期には2.9兆円/月とする。保有残高の削減目標は未定だが、量的緩和(QE)スタート前の残高100兆円に戻すためには500兆円の縮小が必要。一方このQTにより国債保有残高の減少は、全体の7~8%約50兆円に留まるため、市場環境が許せば減額ペースを加速することも予想される。また日銀の分析によるとQEによる長期金利の押し下げ効果は1%であり、今回のQTにより26年にかけて長期金利は0.5%程度(≒1%×2.9/5.7兆円)押し上げられる見込み。

・利上げ…賃上げの動きが広がり、物価は概ね見通しに沿った形で推移する。但し、円安の影響から輸入物価は再び上昇に転じており、先行き物価が上振れするリスクには注意が必要として、政策金利を0.25%へと引上げた。一方で実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持されるとの認識を示した。また日本の潜在成長率を▲1%~0.5%とすると、中立金利は物価目標の2%を足した1~2.5%となり、現在の政策金利は中立金利に比べかなり低く、今回の利上げは金融正常化に向けた調整とした。更に、「見通しが実現していけば引続き政策金利を引上げる」とタカ派的な姿勢を表明したことから、足元の混乱が収束すれば、市場金利は再び上昇すると思われる。

米国:8会合連続で据置きも、9月利上げを示唆するなどハト派

・FOMC声明文…これまでインフレリスクのみに言及していたが、今回はインフレと雇用の2大責務の両面に留意するとした。インフレ鎮静化が続く一方で労働市場に緩みが見られる状況下、雇用リスクが高まれば物価上昇率が2%以上でも利下げに動くとした従前の姿勢を文言に反映させた形。今後は物価と雇用環境の両睨みとなるが、CPIが2%半ば程度であれば当面は失業率等の雇用指標に注目が集まる。

・パウエル議長会見…インフレ鈍化はある程度進展したと発言。更に今後はデータ次第だが、リスクバランスの観点から堅調な労働市場の維持と整合すると判断した場合、早ければ9月会合で利下げが選択肢となり得るとハト派的な姿勢を示した。米国の潜在成長率を1.8%とすると、中立金利は物価目標の2%を足した3.8%となり、現在の政策金利は5.325%と高い。今後、高金利により経済にブレーキがかかるリスクを避けるため、雇用の最大化が脅かされる兆候が確認できれば利下げを継続すると見込まれる。市場は年内3回の利下げを織込み、引続き市場金利の低下が予想される。 

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