割安なJ-REIT

 8月に入りTOPIXは高値から25%下落と大幅な調整となったが、それまで5年間のパフォーマンスはで約2倍の上昇と衆目を集めるものだった。これには日本経済のデフレ脱却とともに、東証による低PBR企業への改善要請、新NISAに伴う個人資金の流入などの影響があるとされる。一方で日本の不動産投資信託(J-REIT)のパフォーマンスは振るわない。

図1は直近5年のTOPIX及び東証REIT、住宅系REITの価格推移。堅調なTOPIXに対し、REITはともに5年前から下落しており不振が目立つ。REITの投資対象である不動産の価格および賃料はデフレの終焉と共に上昇基調にあり、都心のタワーマンション価格などはバブル期を超え過去最高値を更新中、東京都区部の中古マンション価格も5年前の4千万円台から6千万円台へと約3割上昇した。このような保有不動産価格と賃料収入の上昇を反映して、REITの価格は上昇しても良さそうである。にもかかわらず東証REITは5年間で約▲10%、主として都心マンションに投資する住宅系REITも数%下落している。価格が上昇しない原因として経済面を見ると、REITはTOPIXと異なり円安による追い風はあまりない。更に構造面を見ると、一般企業とは異なり内部留保はなく機動的な配当増や自社株買いは出来ない。また株式とは異なりNAVの改善要請をする組織(東証)もなく、早急なNAVの改善は見込めない、などがある。

ここで価格分析(表1)してみる。まずPBR(REITはNAV:ネット・アセット・バリュー)を見ると、TOPIXは低PBR企業を中心とした改善努力もあり、5年前の1.12倍から1.29倍へと上昇した。一方で東証REITは価格下落によりNAVが1.19倍から0.85倍へと下落、価格上昇の著しい都心マンションを持つ住宅系REITも1.42倍から1.06倍へと下落、ほぼ資産価格で取引されている。次に配当利回りを見ると、TOPIXの配当利回りは5年前の2.63%から2.27%へと低下、配当を引上げる企業は多いものの株価上昇で利回りは低下した。一方の東証REIT、住宅系REITはともにREIT価格の下落から配当利回りは5年前から上昇した。市場では日銀の利上げに伴う借入金利の上昇がREITにとり悪材料との見方もあるが、REIT(特に住宅系)は固定金利での借入れが多く、レバレッジも約2倍と低いため、影響は限定的と言える。つまりPBRや配当利回りから見た場合、REITは投資対象として魅力的であり、足元の日本株急落時にも下落幅は限定的だった。

不動産価格上昇に対し、REITの配当原資となる賃料収入は物価上昇とともに増加するものの、賃料改定は主として契約更新時や解約時に行われるため、収益への反映はこれからだ。ここ数年見過ごされてきた収益状況の好転を反映し、今後は割安なREITに対する見直し買いが期待できよう。

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